作品タイトル不明
戦場を広げる
「……中々、良いな」
エドワルドは腕を組み、訓練場を見渡した。
土の乱れ。踏み荒らされた地面。倒れた旗。
その痕跡だけでも、戦いの流れが見える。
「この模擬戦」
ぽつりと落とす。
実戦に近い。短く言う。レオンも静かに頷く。
「思った以上に、差が出る」
エドワルドの視線は鋭い。同じ人数。同じ条件。それでも、結果は分かれる。
先程の戦いを思い返す。
動けた者。止まった者。判断した者。
「……正しいだけでは、勝てない」
小さく呟く。
形が正しくとも——遅ければ意味がない。
「……面白い」
わずかに口元が歪む。
なら——視線が上がる。
「広げるか」
その一言で、方向が変わる。
……組み合わせだ。短く続ける。
長槍だけではない。
クロスボウ。騎兵。
それぞれを混ぜる。単体では見えないもの。
干渉と補完に崩れ。
エドワルドは頷く。
「それに——」
一拍。
「場所も変える」
視線が周囲をなぞる。
平地に、森。ぬかるみ。
同じ条件など存在しない。
戦いは、環境で変わる。静かに言う。
レオンは黙って聞く。
「今は——」
エドワルドは足元を見る。
均された訓練場。
「俺が、全てを見ている」
だが、それは戦ではない。それでは足りん」
首を振る。
「戦場は、見えない」
沈黙。なら——ゆっくりと顔を上げる。
「見えない所から始める」
空気が変わる。
互いに視認できない距離。そこから動く。
「分からなくなる」
低く呟く。
敵の位置が、数が、動きが」
何も見えない。
だから——偵察が必要になる
短く言う。
見つける者、隠れる者、騙す者。
戦いは、そこから始まる。
エドワルドは空を見上げる。
広い。何もない様で、全てがある。
「戦場は、広い」
ぽつりと落とす。
「広いほど——差が出る」
視線が鋭くなる。
「……面白い」
レオンは小さく息を吐く。
変わっていく。
戦い方がエドワルドは一歩、踏み出す。
「準備しろ」
短く言う。
「隊を増やす」
A、Bだけでは足りない。C、D。
数を増やし、混線させる。
「混ぜろ、崩せ、分からなくしろ」
淡々と続ける。さらに一拍。
「調略も入れる」
その言葉が落ちる。
味方の中に、揺らぎを入れる。
それもまた、戦。
静寂。
次は——エドワルドの目が細くなる。
見えない戦だ。その一言だけが——静かに、深く響いた。