作品タイトル不明
試すということ
エドワルドは小さく息を吐いた。
「……試すか」
ぽつりと落ちる。
思考だけでは足りない。
積み上げた仮定も、机の上では意味を持たない。
現実でどうなるか、だ。
視線を上げる。試しに、模擬戦を行う。
短い命令。周囲がすぐに動き出す。
兵が集まり、場が整えられていく。
その様子を眺めながら、記憶がよぎる。
盗賊。散発的な衝突。
そして——隣国との一戦。
「あれは」
小さく呟く。
「まともな戦ではなかったな」
兄の仕掛けた罠に、誘導。そして崩壊。
敵は統率を失い、冷静さを欠いていた。
だから勝てた。
それだけだ。目が細くなる。
もし、平地で接敵していたら。
一拍。
奇襲を受けていたら。
さらに一拍。
数に押されて、戦にもならなかっただろう。静かな断定。
だからこそ。
「試す」
それだけが必要だった。
「A隊、前へ!」
「B隊、整列!」
声が響く。二十名ずつ。即席の小隊。
経験は浅い。だが、それでいい。
中央に旗が立てられる。
単純な目標。単純な勝敗。
「条件は単純だ」
声を張る。
「相手の旗を倒すか奪え、それで終わりだ」
兵たちの視線が集まる。
緊張。だが、逃げ場はない。
エドワルドはゆっくりと視線を移す。
小隊長たち。まだ若い。経験も薄い。
「……当然だな」
ぽつりと漏れる。これまでは——
命令で動いていただけだ。
だが、今回は違う。
今回、指示は出さない。
空気が変わる。
「お前たちが決めろ」
短く、はっきりと。
「どう動くか」
「どう勝つか」
沈黙。
重い責任が落ちる。一人が小さく息を吐く。
「……やるしかない、か」
エドワルドは頷く。
「そうだ」
それ以上は言わない。
「考えろ」
一拍。
「戦は、命令通りには動かん」
「……」
視線が鋭くなる。
「判断しろ」
「その場で、だ」
「それが——戦だ」
「はっ!」
声が揃う。
だが、その中には迷いも混じる。
それでいい。
エドワルドは一歩下がる。
距離を取る。指揮官としてではなく、観る側へ。
もう介入しない。
「始めろ」
その一言。それだけで——
場の空気が切り替わる。
兵が動く。様子を見る者。一歩踏み出す者。
躊躇する者。同じ条件。違う動き。
エドワルドは何も言わない。
ただ、見る。判断の速さに、迷い。
間合いと崩れ、そして繋がり。
ここで初めて見える。
誰が考えるか。誰が止まるか。誰が動くか。
静かに息を吐く。
「これだな」
小さく呟く。
机の上では見えなかったもの。
それが、今——目の前で形になっていた。
模擬戦は、もう始まっている。
そしてそれは——
戦いの始まり、そのものだった。