作品タイトル不明
届いたもの
「よし、もう一投だ!」
乾いた音が響く。
コロコロと転がった木球が、並べられたピンへと向かい——ガコン、と弾いた。
「おお!七本だ!」
「惜しいな、あと二本で満点だったのに」
「いやいや、十分だろう」
笑い声が広がる。
昼下がりの広場。
即席で組まれたレーンの周りに、兵や文官たちが集まっていた。
「まったく……戦の前にこんな事をしていて良いのか」
呆れたように呟く声。
「息抜きも必要だろう、エドワルド様」
杯を片手に、別の男が笑う。
「張り詰めてばかりでは、いざという時に判断を誤る」
「……それは分かるがな」
エドワルドは腕を組み、転がる球を目で追う。
「しかし、妙だ」
レオンが声を掛ける
「何がですか?」
「静かすぎる」
「……?」
「最近の話だ。周辺領の動きが、妙に鈍い」
「それは良い事では?」
「……どうだろうな」
エドワルドは小さく息を吐く。
「何も無い、というのはな——」
一拍。
「何かをしている時だ」
「エドワルド様は、疑り深いですな。戦争中と言えども、いつも嵐では有りません。凪の時も御座います」
「今は凪か……」
「はい。冬も本格的になって来ております。動きも鈍くなります」
「……そうか。考えすぎか……」
小隊長が
「エドワルド様!順番が回って来ましたよ!」
「……」
差し出された球を受け取るとずしりとした重み。
「……」
一歩、踏み出す。
その夜は、静かだった。昼間の喧騒が嘘のように。灯りの下、エドワルドは椅子に腰掛ける。
「……」
ふと、思い出す。
兄が敵国内で手に入れてきたという本。
机の端に置かれたそれを手に取る。
「……建築関係の書物か」
小さく呟きながら、頁をめくる。
紙の擦れる音だけが、部屋に残る。
「……」
読み進めると記されているのは、見慣れぬ技術や、聞き慣れぬ考え方。
どこか、現実味の無い話。
「……」
完全に、否定も出来ない。