作品タイトル不明
大型化という発想
しまった。もう朝か。
思わず本を読んでいる間に寝てしまったらしい。
目を擦りながら、机の上の本を見る。
敵国としか見ていなかったが——やはり技術力は彼方の方が上か。
この本が普通に買える事自体、それを示している。
前世の記憶が、ふとよぎる。
クロスボウ。乾燥パスタ。
それだけでも、十分に脅威だった。
俺は、それらを再現したに過ぎない。
ならば——恐らく隣国でも、どこかの段階で同じ所へ辿り着く。
そうなれば、我々の優位性は消える。
指を鳴らす。
トン、トン、トン。
「それを上回らなければ……」
小さく呟く。
どの道、戦に負ける確率は高くなる。
そこを、撃ち破るには——
「……」
思考が止まる。
「何か……」
視線を上げる。
窓の外。
朝の光の中、女性兵たちがクロスボウの訓練をしていた。
放たれた矢が、真っ直ぐに突き刺さる。
「……クロスボウ」
小さく呟く。
「……完成されている」
力を溜め、解放する。単純で強い。
だからこそ——
「……伸びしろが少ない」
そう言えば、領都で何か改良をしていたな。
あれは一体……
「……」
ぽつりと漏れ、目を細める。
椅子にもたれ、考える。
「……威力は、十分だ。射程も、悪くない。扱いやすさも、ある」
ならば——何が足りない。
「……」
指が、机を叩く。
トン。
「……届く“先”か。いや——飛距離か」
呟きが頭をよぎる。
「……そうか」
静かに、息を吐く。
「相手より飛距離があれば……」
視線が鋭くなる。
「……同じ物でも、こちらが有利になる」
女性兵用のクロスボウより、男性兵用のクロスボウの方が有利。威力と飛距離が違う。
なら——更に大型化すれば。
「それだけで、いいのか?」
自問する。
「……いや」
首を振る。
「考えを止めるな……俺のやり方は、そうじゃない」
小さく呟く。
「試しに、だ」
「……」
沈黙。
「……面白い」
小さく笑い、椅子から立ち上がる。
「……試す価値はある」
その呟きだけが——静かに、部屋に残った。
「……」
小さく息を吐く。
「考えていても、仕方ないな」
立ち上がる。
「……ここは、領都とは違う」
ぽつりと呟き職人たちの顔が、脳裏をよぎる。
木工の経験はある。だが——
「技術は未知数、か」
小さく笑う。
「なら、試すしかない」
歩き出す。
工房の扉を押し開ける。
「親方、いるか」
「おう?どうしました」
顔を上げた職人たちが、手を止める。
「一つ、作りたい物がある」
「……」
空気が少し変わる。
「クロスボウだ」
「……はい?」
「ただし——大型だ」
一瞬、沈黙。
「弓を大きくする。張力を上げる。構造も見直す」
淡々と告げる。
「扱いは考えなくていい。まずは形にする」
職人たちが顔を見合わせる。
「……出来るか?」
問いは、短い。
「……やってみます」
親方がゆっくり頷く。
「材料と時間は掛かりますが……形にはしてみせます」
「ああ」
エドワルドは頷く。
「任せる」
「はっ」
再び動き出す工房に木を削る音が響く。
エドワルドはその様子を一瞥し、踵を返す。
「さて……」
小さく呟く。
「どうなるか……」
答えはまだ無い、だからこそ——
「……面白い」
その一言だけが、静かに残った。