作品タイトル不明
選ぶということ
クラウスは試作機を見上げていた。
木組みに縄。簡略化された構造。
削られた部分。残された部分。
指で叩くと、「コン」と乾いた音。
軽い。だが——頼りない。
軽量化。強度。機動性。どれも正しい。
だが、同時には成立しない。
鹵獲品は完成されている。
攻城兵器として。
全ての要素が均衡している。
だからこそ、用途が限定される。
バランスは、使いやすい。
だが——突き抜けない。
クラウスはゆっくりと歩く。
試作機を一周。じっくりと観察し見る。
測り、想像する。
何を優先するか。それだけの問題だった。
「飛距離だ」
結論は早い。他は切る。迷いは無い。
届かなければ意味が無い。
当たらなければ、存在しないのと同じ。
運用は後。まず、届かせる。
それだけ。方向が決まれば、設計も変わる。
形も変わる。クラウスは再び見上げる。
もう、別の物として見ている。
兵器ではない。手段。ただの道具。
視線を外す。
「……次だ」
思考は止まらない。
酒工房へ向かうにつれ、熱気。甘い匂い。
そして——異質な刺激臭。
「……」
床には、何故か転がる職人……
動かない。だが、死んでいるわけでは無い。
状況は一瞬で把握される。
蒸留で濃縮された酒。失敗ではない。
ただ——強すぎる。
どうやら、コップ一杯。酒職人が飲んだらしい。それで倒れた。
クラウスは黙って見る。
一人。二人。呼吸。状態。確認。
危険ではあるが使える。
差し出された液体の匂い。
刺す様な刺激。
一口、口に含むと次の瞬間。
吐き出す。
「……」
理解は十分だった。これは酒ではない。
用途が違う。
これは……飲む物ではない。使う物だ。
樽へ保管を指示して、量を確保。
必要なのは品質ではない。性質。それだけ。
消毒に使えると記述はある。
だが、試せない。
ならば——実戦で試す。
怪我人が出た時。その時に。
クラウスは樽を軽く叩く。
トン。鈍い音。
揃ってきた。投げる手段に、割れる器。それと揮発する液体。
一つ一つは、意味を持たないが——組み合わされば。クラウスの目が細くなる。
「……まずは、試す」
声は低い。温度が無い。
見えない戦いは、次の段階へ進む準備を、終えつつあった。