作品タイトル不明
投げる距離
クラウスは目の前の構造を見上げていた。
木組みの腕。張られた縄。
修復されたばかりの投石機。
ゆっくりと歩く。
軋む音、木材に手を当てる。
重さ。張力。歪み。指先で確かめる。
一瞬。足が止まる。
「……違うな」
小さく落ちる。城を落とすための形。
それは理解している。
だが——用途が違う。
「……」
視線が腕の動きに向く。
振り上げ。解放。弧。
「……物を飛ばす道具だ」
それだけ。本質は単純だった。
試射。石が運ばれ、縄が引かれる。
張り詰める空気。
解放。重い音。空を裂く。弧を描く。
遠くで土が跳ねる。
「……」
クラウスは目を細める。
距離と落下点、そして威力。
全てを見ている。
百キロ前後の重さを、約三百メートルか……
その程度。
一拍。
「……違う」
再び否定する。重すぎる。
必要なのは、威力ではない。
距離。軽くする。投げる物の重量を半分。
それでいい。その分、遠くへ。
「……」
思考が整理される。何を飛ばすか、ではない。
どう飛ばすか。それだけ。
さらに、必要数、壊れない構造。
そして——軽さ。
運べなければ意味が無い。
固定された兵器ではない。
動かし運び、使う。そのための形。
クラウスは再び見上げる。
完成形は、まだ遠い。だが、方向は決まった。
視線を外す。
「……次だ」
短く落とす。思考は止まらない。
窯場では、熱気と土の匂い。
並ぶ器は、粗い形と未完成品。
素焼きで、脆い。だが——それでいい。
焼き切らない。硬すぎる強度は不要。
必要なのは——そこそこの強度と数。
クラウスは器を一つ手に取る。
軽く叩くと乾いた音。放り投げると割れる。
それでいい。むしろ、その方がいい。
大量生産し、同じ形に同じ大きさ。
均一。それが重要。
用途は、まだ定まらないが、必要になる。
確信だけがある。
時間が掛かる物。だから、先に作る。
使わなければ、別に回す。
無駄にはならない。
合理。
それだけで動いている。
クラウスは歩き出し、止まらない。
考え続ける。
投げる。飛ばす。届かせる。
その先にあるものを。
まだ誰も知らない。
だが——形だけは、既に整い始めていた。