作品タイトル不明
冬を得る手
エドワルドは書類に目を落とす。
無双網?
聞き慣れない言葉に、内容を追う。
冬に、飛来する鳥。網で捕らえる猟。
肉に、羽毛が獲れるか。生活に直結する資源。
許可申請。
理由も明確だった。税。そして、管理。
悪くない。むしろ——良い。
「……許可する」
判断は早い。一拍。
ただ、それだけでは終わらない。
「……見る」
ぽつりと落とす。現物と現場。
それが無ければ、先には繋がらない。
数日後。
冷えた空気の中、張られた網。
地面に広がる、簡素な構造。
だが——無駄が無い。
エドワルドは静かに見渡す。
地形に風の動き。そして水辺。鳥の動き。
全てが噛み合っている。
「……なるほど」
自然を利用した仕組み。
人が無理に合わせるのではない。
寄せる。誘う。そして、捕る。
「……」
視線が上がる。大空には、群れ。想像する。
ふと、思考が逸れる。
「……ここで育てる事は出来ないか」
ぽつりと零れる。捕るのではなく。得続ける。
だが、すぐに壁に当たる。
飛ぶ。それだけで、難度が跳ね上がる。
エドワルドは頷く。
理解は早い。だが——止まらない。
「……なら、囲う」
思考が進む。
柵に、屋根。空間。逃げ場を消す。
可能ではある。規模と手間。現実的ではない。一度、立ち止まる。
視線が動く。水辺に地面、そして網。
「……」
セキシャク鳥の時と同じ。
完全を求めない。制御する。
それだけでいい。
枝を拾う。網に掛ける。絡む。歪む。
目が細くなる。飛びにくくなる。
動きが鈍る。完全ではない。
だが——十分。発想が繋がる。
塞ぐのではない。制限する。
それでいい。
水を引き、環境を作る。寄せる。
逃げにくくする。
全ては同じ線の上にある。
エドワルドは小さく息を吐く。
「……試すか」
それだけ。結論は、いつも単純だった。
冬の猟。ただの営み。
だが——その先にあるものは、既に変わっている。
捕るから、育てるへ。
その一歩が、静かに踏み出された。
紙の上に、粗い線が引かれていく。
「……こんなものか」
エドワルドは手を止めた。
ざっくりとした囲い。水場の位置。
小屋の配置。天井の網の高さ。
「……正しいかは分からんな」
小さく呟く。
「まあいい」
すぐに切り替える。
「飼育は手探りだ。領都でもそうだった。失敗したら、直せばいい。それだけだ」
紙を指で軽く叩く。
トン、トン……今は思いつく限り、やる。
一拍。
「……まずは生け取り、か」
視線を上げる。
捕らえたカモを、そのままここへ放す。環境に慣れるかを見る。
その上で観察して、記録を付ける。
食う物、動き、飛ぶ高さ、群れの動き。全部だ。
積み上げれば、形になる。小さく頷く。
ふと、手が止まる。
「……俺が見たいな」
ぽつりと漏れる。
「直接、観察したい」
だが——小さく息を吐く。
「……難しいか」
「周りが、うるさい」
苦笑に近い表情。
「指揮官が、ずっと張り付く訳にもいかん……自由ではないな」
静かに呟く。視線は、紙へ戻る。
「なら、任せるしかない。その分、やり方を残す」
ペンを取り、書き足す。
試す。記す。積み上げる。
それが——エドワルドの戦い方だった。