作品タイトル不明
度を上げるもの
「……お呼びでしょうか」
酒職人が頭を下げる。クラウスは軽く手を上げた。
「まず確認だ。酒の備蓄はどれ程ある?」
「……現在は飲酒も制限されておりますので」
親方は少し考える。
「かなりの量が残っております」
「そうか」
短く頷く。
「なら話は早い」
机の上の本を開く。
「これを見ろ」
「……?」
親方が覗き込む。
見慣れぬ図。管の様なものと、繋がる容器。
「蒸留酒、というらしい」
クラウスが淡々と言う。
「度数を上げる方法だ」
「……ほう」
親方の目が細くなる。図を追う指が止まる。
「……こんなやり方が……」
「出来るか」
問いは短い。
「……難しくは無さそうです。設備は多少必要になりますが」
「木工と鍛冶で用意させてる」
間を置かずに返る。親方は一瞬だけ言葉を失い、すぐに頷いた。
「……承知しました」
「味はどうでもいい」
クラウスが続ける。
「可能な限り、度数を上げろ」
わずかな沈黙。
「……はい」
それ以上は問わない。
「完成した装置はお前にやる。その後は、好きに使え」
「……!」
親方の目がわずかに動く。
「……期限は、春が明けるまでだ」
「急げ」
「……は、はい!」
職人達が慌ただしく下がる。
扉が閉まる。
静寂。
「……クラウス様」
文官が口を開く。
「何だ」
「……“味はどうでも良い”とは……」
わずかに苦笑が混じる。クラウスは一瞬だけ目を細めた。
「……確かに、言い方は悪かったな」
それだけ。
「……しかし」
文官は続ける。
「その様な強い酒を……如何なさるおつもりで?」
クラウスは本を指で叩いた。
「ここを読め」
「……」
文官が目を落とす。
「……殺菌……?傷口に塗ると、消毒になる……?」
「らしい」
短い返答。
「……成る程!」
文官の顔が明るくなる。
「戦に備えた医療用途ですか」
クラウスは何も言わない。
一拍。
「……いや」
ぽつりと落ちる。
「本命は、その後だ」
「……?」
文官が顔を上げる。
クラウスの視線は、既に別の行に落ちている。指先が、そこをなぞる。
「……よく燃える、か」
小さく読み上げる。
「……!」
文官の表情が固まる。
理解が追いつくまで、わずかな間。
「……なるほど……」
低く漏れる。それ以上の言葉は出ない。
クラウスは本を閉じた。
医療。そして——別の用途。
同じものが、二つの顔を持つ。
次の手は、既に形を取り始めていた。