軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戻るべき場所

冷たい風が吹き抜ける。

地面は、うっすらと白い。

エドワルドは前を見据える。

拠点の簡素な防壁。

見張りの兵。細く上がる煙。

「……戻ったな」

ここが、前線。兵が駆け寄り、報告は簡潔だった。大きな動きは無い。

だが——疲労。それだけが、残る。

寒さ。それが全てを鈍らせている。

動きや判断に消耗。

目に見えない形で、削ってくる。

エドワルドは周囲を見る。

焚き火。装備。兵の立ち方。微妙に重い。

食料や備蓄には、問題は無い。

数字の上では。

だが。それだけでは足りない。

配置と装備に防寒。優先順位は明確だった。

まずは環境え、それを整える。

指示は短く、すぐに動く。兵が散り、音が戻る。

静かに、見渡す。問題は——無い。

そう見える。だが、引っかかる。

小さな違和感。

初めての冬。領都とは違う。

同じ感覚では通用しない。

それは理解している。

視線が落ちる。白くなり始めた地面。

「……寒さ、だけか?」

ぽつりと漏れる。答えは無い。

首を振る。切り替える。

今は、そこではない。

優先すべきは、整える事と崩さない事。

エドワルドは再び前を見る。違和感はある。

だが——まだ、形にならない。

掴めない。それでも。戦場は、待たない。

エドワルドは机の地図を見下ろしていた。

戻ってきたばかりの拠点。

状況は安定している。

表面上は。

「……」

引継ぎは問題無し。混乱も無い。

だが——気温。想定より早い低下。

記録は浅い。秋からでは足りない。

一年。いや、それでも足りるか分からない。

土地が違うし、冬が違う。

経験が無い。それが、そのまま弱点になる。

市場は落ち着いており、備蓄も足りている。

崩れる気配は無い。

だが、それだけだ。視線が落ちる。

北部方面。父の戦場。

分からない。地形に距離。空気感。

何もかもが、曖昧だ。

平野が多い。その一言だけ。

広大。遮る物が少ない。

ならば——機動戦。

速さと判断。ぶつかる前に決まる戦い。

それに対してこちらは、遅い。

歩兵主体。守り寄り。

届かない。手が。

指が机を叩く。トン。トン。トン。

拠点を築く。

考えが浮かんでは、すぐに消える。

広すぎる。守りきれない。

分散すれば——終わる。

沈黙。長い。

父なら、既に考えて動いている。

そう思うが、それに乗る事しか出来ない。

それが、もどかしい。

「……足りん」

低く落とす。何が、とは言わない。

言えない。

決定的な何か。一手。それが無い。

視線が地図に固定される。動かない。

考え繋げる。

だが——届かない。

エドワルドは静かに息を吐いた。

冷たい空気が、肺に刺さる。

思考もまた、同じ様に冷えていた。