作品タイトル不明
見抜いた構図
……セリユーの報告では、武器備蓄は問題無さそうだな。父は書類を閉じる。
そろそろ冬越えが始まる。避難先に指定した村や町の強化も進めさせるか……
グレゴールに指示を出す。
その時——
「領主様」
文官が一礼し、クラウス様より、再び金貨袋と一冊の本、そして文が届いていることを伝える。
「……本?」
父が顔を上げる。
「金貨袋はともかく……本だと?」
「はい」
「文には何と書いてある?」
グレゴールが蜜蝋を破る。
「……薪はよく売れます。エドワルドには秘密で。以上です」
「……は?」
父の眉がわずかに動く。
「それだけか?」
「……はい」
沈黙。
「……本は?」
「植物図鑑にございます。しかも、隣国で発行された物の様で……しおりが挟まれておりますが……」
父は本を手に取り、重さを確かめる様に持ち上げる。そして——しおりのページを開く。
「……」
視線が止まる。
そこに記されている名。
「……オリアンダー?」
静かに読み上げる。
「……」
一拍。
「……ククク」
低く笑いが漏れる。
「……」
「……アッハハハハ!」
一気に笑いが弾けた。
「……なるほどな!」
机を軽く叩く。
「そういう訳か!」
「……?」
グレゴールが戸惑う。
「隣国の連中は——」
父は笑いを堪えながら言う。
「自ら発行した図鑑で、自らの首を絞めているのか!しかも——」
金貨袋を叩く。
「金まで払ってな!」
「……!」
「……どういう事ですか」
「グレゴール」
父は本を示す。
「これを見ろ」
「……オリアンダー……毒を持つ木…………まさか」
顔が変わる。
「そのまさかだ」
父は言い切る。
「領内で見つけたこれを……薪に混ぜて売り払っている」
「……!」
しかもだ。連中はそれを自分で買い。自分で運び。自分で各地にばら撒いている。
「……傑作だ」
父は再び笑う。これ以上ない形で、勝手に広がる。
「……」
グレゴールは言葉を失う。
「……クラウス様……よくも、ここまで……」
「……」
父は静かに笑みを残す。
「……あいつは本当に、よく考える」
「……」
一拍。
「……この様子だと」
父が言う。
「エドワルドには知らせていないな」
「……その様です」
「内密にしておけ」
即答だった。……エドワルドならこんな事はさせんし……許しもせんだろう。
「……はい」
父は椅子に深く腰掛ける。
「……これで」
ぽつりと呟く。
「引っ掛かっていたものが消えた……事後報告とはいえ」
口元が歪む。
「やりおる」
「……」
「そういえば」
グレゴールが思い出す。
「領都からの報告で、旧倉庫の解体を前倒しすると……」
「……ククク」
父が笑う。
「なるほどな。薪が足りんのだろうなら……作る。無理矢理にでもな」
「……まだ、やる気か」
低く呟く。
「……クラウス」
その名を呼ぶ。戦は、まだ終わっていない。
むしろ——ここからだった。