作品タイトル不明
広がる商い
頬に古傷を残した老人が、酒を片手に近づいてきた。
「よっ、お前さん。かなり儲けてるな?」
「……おっ、あんたか。久しいな」
商人が顔を上げる。
「お前こそだ」
「いやぁ、お陰様で忙しくてな」
軽く笑う。
「ちゃんとここの店長に渡してるぞ。受け取ってるのか?」
「もちのろんよ」
老人がにやりと笑う。
「そりゃあ安心だ」
商人は頷く。
「……丁度いい。相談があるんだが」
「何だ?言ってみろ」
「もっと薪が手に入らんか?」
「……もっと?」
老人の目が細くなる。
「ああ。向こう、変な流行病で人手が足りなくてな」
「……」
老人は一瞬、黙る。
「……いや、さすがに——」
言いかけて、止める。
「……待て」
「何だ?」
「角のテーブルで飲もうか」
視線を流す。
周囲の様子を確かめてから、席を移す。
「……で?」
商人が身を乗り出す。
「ここだけの話だがな」
老人は声を落とす。
「お前さん、領都の南って行った事あるか?」
「南?いや、無いな」
「そうか」
老人は頷く。
「近々な、区画整理と開墾が入るらしい」
「ほう?」
「その際に、古い建物を取り壊す」
「……」
「で、その廃材をな」
少し間を置く。
「軍用の薪規格に整えるって話だ」
「軍用……?」
商人の目が光る。
「あの、長さや太さが揃ってるやつか?」
「それそれ」
老人が頷く。
「……しかし、何でそんな話を?」
「元お仲間が愚痴っててな」
老人は肩をすくめる。
「解体屋じゃねぇってよ」
「……?」
「領主がケチってな。軍を使えばタダだろって訓練がてら、解体と薪作りをやらせるらしい」
「……ははっ」
商人が苦笑する。
「そりゃあ……」
「セコいだろ?」
老人も笑う。
「解体費は浮くわ、薪も出来るわ。領主にとっちゃ一石二鳥だ」
「……」
「……って事は」
商人が声を落とす。
「その薪をちょろ……?」
「人聞きが悪いな」
老人は鼻で笑う。
「ちょいと“横流し”するだけだ」
「……」
「まあ、その分、何人かには金が掛かるがな。元は建物だ。外壁のやつは湿ってるのも混ざるだろう」
「……まあ、多少なら問題ねぇ」
商人はすぐに答える。
「それにだ」
老人は続ける。
「開墾も入る木はもっと出る。しかも今回は、最初からある程度揃えてある」
「……!」
商人の顔が変わる。
「……まとめて、か」
「そういう事だ」
老人が笑う。
「お前も、ちまちま個人相手に売るのは手間だろ?」
「……ああ」
即答だった。
「大口が一番楽だ」
「だろ?」
「……」
一瞬の沈黙。そして——
「……乗る」
商人が言い切る。
「決まりだな」
老人が頷く。
「ただ、今回は少し時間が掛かる」
「構わねぇ」
商人は手を振る。
「その間は、いつも通り回す」
「よし」
老人は酒を持ち上げる。
「……五日後だ」
「ここに来い。もし俺がいなけりゃ、店長に聞け」
「分かった」
商人も杯を持つ。
「さ、飲め」
「おうよ」
杯がぶつかる。
乾いた音。
「……」
その裏で——新しい流れが、静かに動き出していた。
「クラウス様。大隊長からで話は進んだとの事です」
「よし。計画の第二弾だ。進めろ」
「はい」