軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

渡されたもの

北方、旧領主邸。

冬の気配が残る部屋の中。

机の上に、ずしりと重い音が落ちた。

「……これは?」

領主の父はゆっくりと視線を落とす。

革袋。厚く、固く結ばれている。

見ただけで分かる——軽い物ではない。

「クラウス様よりです」

グレゴールが静かに答える。

「……中身は」

「金貨にございます」

父は袋に手を掛ける。

革の感触。重さ。

持ち上げるだけで、中身の量が伝わる。

結び目を解く。わずかな音。

そして——袋の口を開く。

中を覗くと、次の瞬間に無言のまま、袋を傾けた。金の輝きが、机の上へと広がる。

重なり合う金貨。乾いた音が、遅れて響く。

「……随分な量だな」

低く落ちる声。

「はい」

グレゴールは短く応じる。

「用途は?」

「北部方面にてご活用を、と」

父の手が、止まる。

指先が、金貨の上で静止する。

「……理由は?」

「余剰資金とのみ」

沈黙。

父は一枚、金貨を指で弾く。カン、と乾いた音。それがやけに、長く残る。

「……余剰、か」

小さく呟く。

その言葉を、口の中で転がす様に。

視線が落ちる。金貨。整った刻印。擦れは少ない。新しい。

「……いつも通りだな」

ゆっくりと口を開く。

「説明が、足りん」

わずかに眉が寄る。

「……」

グレゴールは何も言わない。

問われれば答える。

だが、今は問われていない。

父はもう一度、袋の中を見る。

金貨は、まだ残っている。

「……何に使った余りだ?」

低く落とす。その問いは、独り言に近い。

「……確認致します」

グレゴールが応じる。

「……いや、いい」

父は首を振る。

「今は時間が惜しい」

視線は、金から離れない。

袋を閉じる。革が擦れる音。

その音が、妙に重い。

「……まあいい」

短く言う。判断は早い。迷いは無い。

「北部に回す」

現実的な選択。

「防備、備蓄、人員——足りぬ所に充てろ」

「承知しました」

グレゴールが一礼し、下がる。

扉が閉まり、音が消える。

「……」

静寂。

父は椅子に深く腰掛ける。

視線は、袋へ。

「……クラウス」

小さく呟く。

「……お前は、何をしている」

低く、押し殺した声。

問いではない。確信でもない。

ただの違和。

袋を手に取る。重い。だが——

それだけではない。

金の重み。

それとは別に、見えない重さが、残る。

出所。理由。流れ。何も、見えない。

軽くはない。決して。

父は袋を見つめたまま、動かなかった。

その違和感は——

静かに、確かに、そこにあった。