軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先に打つ手

書類の山。

クラウスはその中で、淡々と処理を続けていた。

目を通し、置く。次を取る。

その繰り返し。

ふと、手が止まり視線が、宙で止まる。

何かが繋がり遅れて——理解が来る。

「……不味い」

低く落ちる。空気が変わる。

クラウスはゆっくりと顔を上げる。

「……領内に出せ」

短い指示。大至急。

それだけで、十分だった。

内容は明確。隣国で原因不明の病。

体調管理の徹底。

異変があれば外出を控え、医師へ。

文官が一瞬、固まる。

当然だ。領内では、何も起きていない。

だが——それは内側の話だ。外は違う。

「……」

クラウスは一歩、踏み出す。

視線が鋭くなり、情報は既に流れている。

隣国で、何かが起きている。

それだけが先に広がる。

ならば、何もしていない方が、不自然になる。

疑われる。

結論は一つ。演出する側。備えている側。

それを見せる。

文官が動く。理解は十分だった。

扉が閉まる。

静寂。

クラウスはその場に立ったまま、小さく息を吐く。

「……危ない」

ぽつりと呟く。気付くのが、遅れた。

一歩、遅れれば、違和感になる。

繋がる。

「……」

机に手を置く。

隣国で“それらしい病”が出ている。

それなのに——何もしない。

それが、異常になる。

沈黙。

やがて顔を上げる。

「……まだ間に合う」

短く落とす。椅子に座り再び、書類へ。

何も無かった様に。

だが——一手、打たれた。

見えない歯車が、さらに噛み合う。

静まり返った部屋。エドワルドは地図を見下ろしたまま、動かない。

「……意図的、か」

小さく呟く。

レオンは何も言わない。ただ、待つ。

やがて。

「……違うな」

エドワルドが口を開いた。

「……は?」

レオンが視線を上げる。

「仮に“意図的”だとしても」

指で地図を叩く。

この規模は不可能だ。離れた地点で、同時に発生させる。しかも複数……人手が足りん。

金も、時間もだ。淡々とした分析。

レオンは反論しない。

「……工作員ではない」

エドワルドは断言する。

「ならば——」

思考が進む。

「……自然発生に近い形で広がっている」

「……?」

レオンがわずかに眉を寄せる。

「……何かの条件が揃った時に発生する」

「……条件、ですか」

「ああ」

エドワルドは頷く。

寒波の後だ。気温が下がり、体力が落ちる。そこに何かが重なった。

「それが、あの症状を引き起こしている」

部屋に静けさ。

「……つまり」

エドワルドはまとめる。

「病ではない。だが、完全な人為でもない。“環境要因”だ」

言い切る。

レオンは一瞬、言葉を選ぶ。

「……それですと対処が難しくなりますな。原因が特定出来ません」

エドワルドは地図を見る。

「……だが対処はある」

「……?」

「各村に、通達を出せ」

視線を上げようとするとそこに文官が飛び込んできた。

「クラウス様より領内へ緊急発布。内容は隣国内で謎の流行病発生中。住民には体調管理を厳と。また体調不良の者は外出を控えさせ、医者に掛からせろ。との事です」

「エドワルド様。如何やらクラウス兄上も同じ結論に達した様ですが……」

「……そうだな……ここで俺が指示するのも可笑しな話だ……」

その視線は一点に留まる。

レオンが話す。

「流行病はいつ何処で、如何言った形で発生するか分かりませぬ……」

「……そうだな。俺の考え過ぎだな」

薪の荷馬車のイメージがよぎるが言語化しない。

だが——その判断が更にクラウスの仕掛けから遠ざけていた。