作品タイトル不明
届かなかった核心
エドワルドは、その足で兄の元へ向かった。
勢いよく扉を開ける。
「兄上」
「……何だ?」
クラウスは書類から目を離さずに応じる。
「隣国の商人が、薪を買い込んでいます」
「……?」
一瞬だけ視線が上がる。
「知っているが……」
淡々とした返事。
「……何故、止めないのです!」
エドワルドの声が強くなる。
「止める?」
クラウスは眉を僅かに動かす。
「おかしな事を言うな」
「薪は軍事物資になります!」
「それは理解しておる」
即答だった。
「……では、何故止めないのです?」
「……」
クラウスはゆっくりと視線を上げる。
「エドワルド」
静かに呼ぶ。
「お前は、おかしな事を言うな」
「……?」
わずかに戸惑う。
「俺は、以前」
クラウスは淡々と続ける。
「民を巻き込むなと、お前に言われたな」
「……はい」
「その件については」
一瞬だけ言葉を区切る。
「俺も思う所はあった…」
「……」
「そこに商人が来た。薪が不足している、と」
「……」
「だから、売る事を認めた」
簡潔な説明。
「軍事物資である事も、当然理解している」
「……」
エドワルドは言葉を失う。
「……だがな」
クラウスは続ける。
「その商人は“各村々で必要だ”と言っていた」
「……」
「嘘かもしれん。だが」
視線が鋭くなる。
「お前がその立場なら、どうする?」
問いが突き刺さる。
「……売るのか?」
「……売らないのか?」
「……それは……」
言葉が出ない。
「……」
沈黙。
「俺は」
クラウスは肩をすくめる。
「思う所はあったが……売った。それだけだ。それなら、問題は無かろう?」
静かな結論。
「……はい」
エドワルドは俯く。
「……失礼しました、兄上」
「解ってくれたなら、それでいい」
「……はい」
短く答える。
エドワルドは扉へ向い開ける。
そして——出て行った。
扉が閉まる。
「……」
静寂。
「……ふぅ」
クラウスが小さく息を吐く。
「……危なかったですね」
背後から文官が口を開く。
「……ああ」
クラウスは短く答える。
「かなり焦ったが……」
机に指を置きトン——トン、トン、トン
「……本丸には届いていなかった」
「……」
文官は黙る。
「……事実が分かれば」
ぽつりと呟く。
「……」
「……終わりだな」
静かな一言。
「……はい」
誰も否定しない。出来ない。
クラウスは再び書類に目を落とした。
何事も無かったかの様に。
だが——確実に一歩、近づいていた。