作品タイトル不明
試すという事
トン、トン、トン——
机を指で叩く音だけが、部屋に響いていた。
「……物は手に入れた」
クラウスは視線を落としたまま呟く。
「あの図鑑の記述が正しければ」
思い返す。葉と枝と幹。
「……全てに含まれている筈だが」
指が止まる。
「……」
採取に向かわせた兵の姿が脳裏に浮かぶ。
「口は布で塞がせた」
「革手袋も装備させた」
「樹液に触れたら、すぐに洗わせる」
一つ一つ確認する様に。
「……これで問題は無い筈だ」
だが。
「……」
わずかに眉を寄せる。
「本当に、効果があるのか」
静かな疑問。
「……試してみたいが……」
視線が鋭くなる。
「やり方を間違えれば、こっちにも被害が出る」
沈黙。
「……如何するか」
その時。
「クラウス様」
扉の向こうから声。
「ん?何だ」
顔を上げる。
「商人が面会を求めております」
「……商人?」
「はい」
「薪を売ってくれないか各村々で薪が足りない、と」
「薪?」
一瞬、思考が止まる。
「はい」
「……何処の商人だ」
「隣国に拠点を持つ者です。今までも領内で商いをしており、これまで問題は起こしておりません」
「……」
クラウスの口元がわずかに歪む。
「ふっ。人手も足りず、物流も混乱している。だから、うちから仕入れるか」
小さく笑う。
「たく……商人ってやつは……」
言いかけて——止まる。
「……?」
「……まて」
低く呟く。
「はぁぃ?」
トン、トン、トン——
指の音が速くなる。
「……」
何かが繋がる。
「……面会は却下だ」
顔を上げる。
「そいつの後をつけさせろ」
「……はっ?」
「そうだな……」
一瞬考える。
「元兵士を使え老兵でいい。接触させろ」
「……接触、ですか?」
「ああ」
クラウスは淡々と言う。
「薪が手に入るかもしれない。そういう話を、さりげなく持っていけ」
「……」
文官は理解が追いつかない。
だが。
「……承知しました」
命令は絶対だ。
「話を聞き出せどう動くかを見ろ」
「はっ!」
文官がすぐに動く。
扉が閉まる。
「……」
再び静寂。
「……」
クラウスは机に視線を落とす。
「……結果は、直接は見れんか」
小さく呟く。
「だが」
口元がわずかに上がる。
「噂ぐらいは入ってくるだろ。……まずは、それでいい」
トン——
最後に一度だけ指を叩く。
「……確かめるか」
静かな決断。
それは——誰にも気付かれないまま始まる、“実験”だった。