軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

触れるな

「……ここか」

兵の一人が足を止めた。

周囲は、深い森で人の気配は無い。

風の音と、葉の擦れる音だけが響く。

「こんな所に、本当にあるのか……?」

誰かが小さく呟く。

「報告じゃ、この辺り一帯らしい」

先頭の兵が地図を見ながら答える。

「気を抜くなよ」

「……」

隊は慎重に進む足元は柔らかい土。

踏み固められていない地面で、誰も通らない場所だと分かる。

「……」

やがて。

「……あれか?」

一人が指を差した。

少し開けた場所。

そこに、まとまって生えている。

見慣れない木。

細い幹に青々と長い葉。

そして——

「……」

冬になる中どこか、生命力が溢れて綺麗ですらある。

「……これが?」

疑問の声。

「ただの木にしか見えんが……」

一歩、近づこうとしたその時。

「止まれ」

低い声。

全員の動きが止まる。

「触るな」

はっきりとした命令。

「……」

空気が張り詰める。

「装備を確認しろ」

先頭の兵が続ける。

「口に布を巻け」

「革手袋を着けろ」

「素手で触るな」

「……はっ」

慌てて布を取り出し、口元を覆う。

手袋をはめる音。

革が擦れる音。

「切る時も同じだ」

先頭の兵は“それ”から目を離さずに言う。

「木の粉を素手で触るな」

「切り口にも触れるな」

「……」

「触ったら、すぐに手を洗え」

一言一言が重い。

「分かったな?」

「……はっ!」

緊張の混じった返事。

「……本当に、そこまでか?」

後ろの兵が小さく聞く。

「……ああ」

先頭の兵は短く答えた。

「詳しくは知らん」

「だが」

一瞬、間を置く。

「“扱いを誤るな”と言われている」

「……」

それで十分だった。

「作業に入る。まずは周囲からだ。道を作る。運び出す為のな」

「……」

兵達は頷く。

そして慎重に動き出す。

他の木の枝を払い地面を均す。

だが——誰も“それ”には触れない。

「……」

一人の若い兵が、ちらりと視線を向ける。

葉が風に揺れている。

静かに。

「……冬に青々としていて、綺麗だな」

思わず呟く。

「見るな」

即座に声が飛ぶ。

「……っ」

肩が跳ねる。

「余計な事を考えるな」

「……はい」

慌てて視線を逸らす。

「……」

作業は続く。

慎重に距離を取りながら。

「……これ、運ぶのか?」

誰かが呟く。

「……ああ」

「どこに?」

「……知らん」

短い答え。

「……なあ」

別の兵が小さく言う。

「これ、何に使うんだ?」

誰も答えない。

答えられない。

「……」

一つだけ分かる事がある。

「……関わるな」

先頭の兵が低く言った。

「命が惜しければな」

その言葉は、冗談には聞こえなかった。

森の奥。

静かに揺れる青々とした葉。

その周囲で——

人が、触れずに扱う準備だけが進んでいく。

それが何を意味するのか誰も知らないままに。