軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次の一手

「……さて」

クラウスは椅子の背にもたれ、小さく息を吐いた。

書類仕事は終わっている。

机の上には、整えられた報告書だけ。

それで十分だった。

内容も、量も——余計はない。

一瞬だけ、文官が言い淀む気配。

だがクラウスは気にしない。

立ち上がる。

領都の外へ出るつもりはない。

ただ、確認しに行くだけだ。

工房へ。

扉を開けると、木の匂い。

削る音。そして、わずかな緊張。

老木工師が振り返る。

既に戻ってきた事への驚き。

そして——警戒。

クラウスは気にせず歩み寄る。

頼んだ物。

それが出来ているか、それだけだ。

工房の空気が、わずかに重くなる。

順調ではある。だが、完全ではない。

歯切れの悪さ。それだけで、理解する。

「……やはりか」

量産。

そこに時間が掛かる。

通常の品であれば問題はない。

だが——これは違う。

手間が掛かる。精度も必要。

そして、数が要る。

クラウスは小さく頷く。分かっている。

だからこそ——必要だ。

視線が、試作へ向く。

粗削りな形。だが、可能性は見える。

これが完成すれば。戦力は変わる。

それだけで十分だった。

「金も物資も、惜しまない。必要なものは、全て出す。急げ」

それだけを残す。工房に、圧が残る。

老木工師は深く頭を下げる。

クラウスは振り返らず、去る。

扉が閉まり静寂。

やがて——大きく息が吐き出される。

張り詰めていた空気が、緩む。

若い職人が、試作を見つめる。

発想。構造。

そして、それを求める側。

どちらも、常識の外にある。

老木工師は静かに頷く。

だが——理解はしている。

これが完成すれば。

「変わる。戦いが……」

その在り方が。

言葉にする必要はなかった。

手元の道具を取り上げる。

削る。音が戻る。

その音は、単なる作業ではない。

次の戦いへと繋がる——準備の音だった。