軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

崩れる秩序

机を叩く音が、隣国のある領地の執務室に響いた。

積み上げられた報告書。

その一つを掴み、男は荒く目を走らせる。

橋の崩落。しかも——火災。

「……」

紙を握る手に、力が入る。

復旧の目処は立っていない。

資材は届かず、職人も集まらない。

南街道の流通は、ほぼ止まっていた。

「……たかが橋一つで」

低く吐き捨てる。

だが現実は、それだけでは終わらない。

別の報告書を手に取る。

村の火災。死者多数。井戸の水が濁り、異臭。

疫病の疑い。

しかし——断定は出来ない。

医師によって判断が分かれている。

「……」

眉が歪む。さらに別の報告。

他の村でも、同様の体調不良。

だが——発生時期が揃っていない。

場所も、離れている。同時ではない。

連続でもない。

繋がりそうで——繋がらない。

「……」

机を叩く。情報はある。

だが、意味を持たない。

全てが断片のまま、ばらけている。

「……何かがおかしい」

小さく呟く。

だが——何が、とは言えない。

それが、最も苛立たしい。

沈黙。

その空気を破るように、扉が開く。

新たな報告。

南の市場。物資の買い占め。価格の急騰。

商人達の動揺。

「……」

男の目が、わずかに見開かれる。

「……早すぎる」

流通が止まり、混乱が広がる。

その動きに対して——対応が、早すぎる。

まるで。

「……」

思考が止まる。

繋がりかける。だが——掴めない。

「……偶然だ」

小さく吐き出す。

そうでなければ、説明がつかない。

机の上に並ぶ報告書。

橋の崩落。村の火災。体調不良。買い占め。

「……」

どれも単体なら、あり得る。

だが——同時に起きている。

この国の中で。

「……」

ここは隣国。

外から見れば、平穏に見えるはずの内側で。

確実に、何かが崩れている。

「……対処しろ」

低く命じる。

流通の再編。備蓄の確認。医師の派遣。

出来る事を、全て。

文官達が一斉に動き出す。

「……」

男は一人、立ち尽くす。

「……何だ……」

小さく呟く。

「何が起きている……?」

答えは、出ない。

だが一つだけ、確かな事がある。

「……崩れている」

静かに、言葉を落とす。

目に見えぬ何かにより。

この隣国の中で——

秩序が、音もなく崩れ始めていた。