軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

短すぎる報告

エドワルドの元に、早馬が到着していた。

領都からの文。

それを見た瞬間、わずかに眉が動く。

受け取り、封を切る。中を開き——目を通す。

一瞬、言葉が止まった。

短い。あまりにも、短い。

「破壊工作成功。各村々で疫病を装う。また大橋を破壊せり」

それだけだった。

エドワルドは無言のまま、もう一度読み返す。

だが内容は変わらない。

簡潔。無駄がない。

そして——情報が足りない。

どの村か。どの橋か。何も書かれていない。

紙を持つ手が、わずかに止まる。

報告としては不十分。

だが——内容そのものは重い。

橋の崩落。疫病の偽装。村の壊滅。

断片的な報告と、これまでの情報が繋がる。

やっている。小さく、そう確信する。

だが同時に、全体像が見えない。

どこまで進んでいるのか。

どこまで影響が広がるのか。

読めない。

“各村々”では広すぎる。特定が出来ない。

橋も同じだ。一本なのか、複数なのかすら分からない。

情報が足りない。

エドワルドはゆっくりと息を吐いた。

少なくとも——自領内には影響は出ていない。

現時点では、それだけが確かな事実だった。

ならばいい。そう判断しながらも、思考は止まらない。

短すぎる報告。

無駄を削ぎ落とした結果なのか。

それとも、意図的に削っているのか。

どちらにせよ——掴めない。

気持ちが悪い。分かっているはずの事が、見えない。断片だけが揃い、全体がぼやける。

やがて、顔を上げる。目が変わる。

確信する。

敵は動けない。少なくとも——すぐには。

ならば。こちらが整える番だ。

備蓄。輸送。兵站。

全てを見直す。兄が時間を稼いだ。

ならば——無駄にはしない。

その判断に、迷いは無かった。

静かに、息が落ちる。

父の手元には、報告書が一通、机に置かれた。

クラウスは無事に戻った。

それだけを確認し、深くは問わない。

報告は、後でいい。部屋に静けさが戻る。

「……全く」

小さく漏れる声。

事後報告はするなと、何度も言っている。

それでも——やる。ため息が落ちる。

だが、その口元はわずかに緩んでいた。

机の上には、複数の報告書。

橋の崩落。村の壊滅。

そして、体調不良の拡大。

一枚ずつ、目を通す。

「……成る程」

低く呟く。

断片だった情報が、形を持ち始める。

各地の報告。

そして、クラウスの通過経路。

一致する。

破壊と——疫病の偽装。

ゆっくりと、目を閉じる。

頭の中で、線を引く。点と点が繋がっていく。

「……しかも」

目を開く。時間が、揃っていない。

発生の時期が、ばらけている。

寄ってすぐではない。

意図的に、ずらしている。

これでは——追えない。

発生源を辿ろうとしても、時間と距離が合わない。

「……徹底している」

小さく、感嘆が混じる。

別の報告書へ視線を落とす。

大橋の崩落。位置を思い浮かべる。

街道の先。

「……あそこか」

ゆっくりと頷く。

南街道。物流の流れ。人の往来。

頭の中で、組み上がる。

混乱している。しかも——時期が悪い。

冬備え前。

「……手痛いな」

敵にとって。だが。

「……いや」

小さく首を振る。我が領にとっては——

「時間が稼げた」

その言葉は、静かだった。

だが確信に満ちている。

しばしの沈黙。

やがて、ゆっくりと立ち上がる。

クラウスが崩した。

ならば——こちらは整える。

備蓄。輸送。兵站。無駄にはしない。

その判断に、迷いは無かった。