軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

雪の帰還

「シュトライヒ……いや、クラウス様。領地に入りましたよ」

護衛役が静かに告げる。

前方には見慣れた地形に空気もどこか違う。

「……そうか」

クラウスは軽く息を吐いた。

「中々の旅だったなぁ」

肩を回す。

緊張の抜けた様な、軽い声。

「……そうですな……」

護衛役の返事は、少しだけ重い。

そのまま進む。

やがて、遠くに集落が見えた。

「……あれか」

クラウスが目を細める。

「はい。こっちの偽装村です」

「中々、さまになって来たな」

簡素だが、外から見れば一つの村に見える。

人の出入りもある。

物資の流れも作ってある。

「そうですね」

護衛役も頷く。

「寄りますか?」

「いや、いい」

即答だった。

「俺が外に出ていたと知られても困る」

「……」

護衛役が一瞬、黙る。

そして。

「え……?」

顔を上げた。

「まさか……」

嫌な予感。

「クラウス様」

声が少し強くなる。

「敵地に行く事……秘密にしてませんよね?」

クラウスは軽く肩をすくめた。

「グレゴールには言ったさ」

「……!」

「その足でエドワルドの所へ行ってるはずだ。恐らくその後、北部方面へ向かう。そうすれば父上にも話は行く」

「……いや、それだと……!」

護衛役の声が上ずる。

「時間が掛かるだろう?」

クラウスはあっさりと言う。

「早馬を何度も出すより効率がいい。それに」

少しだけ笑う。

「無事に戻って来てるだろ」

「……いや……そうですが……」

納得しきれない。

「問題無い」

クラウスは前を向いたまま言う。

「結果が全てだ」

「……」

護衛役は言葉を失う。

そのまま進む中、雪が少しずつ強くなる。

「領都に着いたら、ゆっくりしようや」

クラウスは軽く言った。

「報告書もちゃんと書いて、二人に送るさ。問題無いだろ?」

「……」

しばらく沈黙。

やがて、護衛役が小さく呟く。

「……知りませんぜ……」

半ば呆れた様な声。

止める気はないし止められない。

「……」

クラウスは何も言わない。

ただ前を見る。

既に、次の事を考えている目だった。

その背後で雪は、静かに降り続いていた。

既に、次の事を考えている目だった。

雪が降る中——久々の領都が見えてくる。

高い壁に見慣れた門と人の気配。

「……戻ったな」

誰に言うでもなく呟く。

門をくぐると衛兵が敬礼する。

そのまま進み、馬を止めた。

「皆んな、ご苦労」

クラウスが振り返る。

「一時金を受け取って、ゆっくりしてくれ。休んだ後は——」

少しだけ笑う。

「また頼むな!」

「……また!?」

誰かが思わず声を上げる。

「じゃあなー!」

クラウスは軽く手を振った。

場の空気が少し緩む。

疲労と安堵と呆れが混じる。

それでも誰も文句は言わない。

成果は出ている。

それを、全員が理解しているからだ。

「さて」

クラウスは踵を返す。

「俺は俺で仕事だ」

そのまま歩き出す。

「報告書を二通」

ぽつりと呟く。

「父上とエドワルドに」

迷いはない。

「……書くか」

足取りは軽い。

まるで、何も無かったかの様に。

その裏で何が起きたかなど——

誰も知らないまま。