作品タイトル不明
祭りの夜
その町は、久方ぶりに賑わっていた。
笑い声。酒の匂い。火の明かり。
まるで祭りの様な空気だった。
それも無理はない。
人は減り、家族も仲間も、多くがこの地を去った。
残された者達は、静かに日々を過ごすだけ。
そこに——
「奢る」
という話が降ってきた。
しかも理由は——
「この町が気に入ったから」
そんな言葉と共に。
「流石、金持ちのお坊ちゃんだなぁ!」
村人が笑いながら声を掛ける。
「やる事が派手だ!」
「いやいや」
シュトライヒは軽く手を振った。
「楽しんでくれれば、それでいい」
酒が回り始め笑いが増える。
火が大きくなり誰も疑わない。
疑う理由がない。
「シュトライヒ様」
護衛役が小さく声を掛ける。
「ああ」
視線を動かさず答える。
「そろそろだな」
火の揺れを見つめながら呟く。
「よし」
時間が過ぎると一人、また一人と座り込む。
笑い声が途切れていく。
「……皆、寝始めたか。よく効くなぁ」
「ですな」
護衛役が周囲を確認する。
「じゃあ、段取り通り進めるとするか」
「はい」
立ち上がり誰も止めないし止められない。
「しかし」
護衛役が小さく言う。
「たまたま大きな火を囲んで祭りになるとは」
「そればかりは想定外だ」
シュトライヒは肩をすくめた。
「俺が仕掛けた訳じゃない。だが——」
火を見つめる。
「この火が移った、という流れにすればいい」
「……なるほど」
「しかしシュトライヒ様」
護衛役が一瞬迷う。
「この寝ている村人は……どうしますか」
「……」
わずかな間。
「皆まで聞くな」
静かに言う。
「目を覚ませば、それでいい。覚まさなければ——」
言葉を切る。
「……ほっとけ」
「……承知」
護衛役はそれ以上何も言わなかった。
動き出す荷馬車。
そこに積まれた、油をたっぷりと含んだ服。
橋へ向かう。夜の中、音を殺して進む。
やがて橋脚へ辿り着く。
見上げると巨大な構造物。
「……何度見ても」
シュトライヒは小さく呟く。
「町の真上に橋を通すってのは、嫌味だな」
「恐らく地形もありますが……」
護衛役が答える。
「見せしめ、という面もあるかと」
「ふぅ……」
息を吐く。
「嫌な話だ」
「それに」
護衛役が続ける。
「橋の建設に賛成した連中は、金を貰ったという噂も」
「……分断を煽ったか」
「その様です」
シュトライヒは橋を見上げたまま言う。
「上は便利に下は切り捨てる……よくある話だ」
視線を落とす。
「川に飛び込んだ工作は?」
「他の連中が……終わった様です」
「そうか」
短く頷く。全て揃った。
「さて」
油を含ませた布に手をかける。
「さっきより大きい炎を見てみるとするか」
火を点ける。
ゆっくりと、確実に広がる。
「撤収しながら、各建物にも火を放て」
「はっ!」
一行は素早くその場を離れる。
背後で、火が音を立て始める。
小さな火が、大きな火へと変わる。
やがて——橋へ。
夜の中で、何かが崩れ始めていた。