軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

静かな宿

「ここが宿屋か」

シュトライヒは看板を見上げて呟いた。

「どうやら、こっち側で唯一の宿屋らしいです」

護衛役が周囲を見回しながら答える。

「そうか」

扉を押して中に入ると軋む音。

中は広くはないが、手入れはされている。

「……俺ら以外は」

「居そうもないですな」

護衛役が苦笑する。

「まあ良い」

シュトライヒは肩をすくめた。

「ゆっくりするか」

「……そうですな」

護衛役も頷く。

「後、一時間程で夕食だそうです」

「了解だ」

それぞれ部屋に荷を置き、時間を潰す。

やがて——夕食の時間。

食堂に降りる。

「……」

静かだ。他に客の姿は無い。

「如何やら、本当に我々だけみたいですな」

「寂しいものだな」

シュトライヒは椅子に腰掛けながら言う。

料理が運ばれてくる。

湯気。素朴だが、香りは良い。

「……だが」

一口食べて、少しだけ目を細める。

「飯は美味いな」

「確かに……」

護衛役も頷いた。

その時だった。

「昔は、もっと賑やかだったんだけどねぇ」

少し離れた所から声が掛かる。

振り向くと、女将らしき人物がこちらを見ていた。

「船頭も言っていたな」

シュトライヒが軽く返す。

「ああ、あいつかい」

女将は苦笑する。

「昔から居る連中も、ほとんどいなくなっちまってね」

「引っ越しさ。ここじゃ食っていけないからねぇ」

「……」

「今や、この辺りの人口だって三十人くらいしか残ってないよ」

「そんなに少ないのか?」

護衛役が思わず聞き返す。

「ああ」

女将は肩をすくめる。

「この状態じゃあねぇ。橋に全部持ってかれちまった」

「……まあ、確かに」

シュトライヒは静かに頷く。

「これじゃ稼ぎにならんな。だろう?」

女将は苦笑した。

「それでもまあ、細々とやるしかないのさ」

会話はそこで途切れた。

静かな食事。

音は、食器の触れる音だけ。

やがて食事を終え、席を立つ。

「さて、休むとするか」

「はい」

部屋へ戻り扉を閉める。

ようやく人目が消える。

「……で?」

護衛役が口を開く。

「何か、名案は思いつきましたか?」

シュトライヒは少しだけ考えた。

そして。

「……そうだな」

ゆっくりと答える。

「明日から、この町で適当に物資を買い込め」

「……はぁ?」

護衛役の声が間抜けに漏れる。

「金を使え飲み食いでもいい」

「……」

理解が追いつかない様子だ。

「その前に」

シュトライヒは続ける。

「観光、というものをしてみるか」

「……観光、ですか」

「ああ」

「この町が何を“売り”にしているのか、見ておく必要がある」

「……」

護衛役は言葉を失う。

「他の連中には買い込みだ。目立つくらいでいい」

「……目立つ?」

「そうだ」

シュトライヒはわずかに笑った。

「金を落とす客は、嫌われない」

「……」

「馬車も買うか」

ふと思いついた様に言う。

「……馬車?」

「二台ほどでいい」

「買った物はそこに積み込め。服、油、何でもいい。とにかく“使え”」

「……はぁ……」

護衛役は困惑したまま頷いた。

「……分かりました」

納得はしていないが従うしかない。

シュトライヒは窓の外に目を向けた。

静かな町。人の少ない場所。

流れから外れた土地。

「……さて」

小さく呟く。

「どう崩すか」

その声は、静かだった。