軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

動かぬ足

セリユーの元に、次々と報告が上がっていた。

机の上に積まれた書面を一枚手に取り、目を通す。

「……やはり、か」

小さく呟く。

避難対象に指定された村や町。

そこへは既に武官、文官の配置を進めている。

訓練の準備も整い、後は実施するだけの段階だった。

だが。

「反発が出ております」

控えていた文官が報告する。

「強いか?」

「……はい。特に小規模な村ほど顕著です」

「……そうか」

セリユーは静かに紙を置いた。

「補償も出しているのに、か」

「はい。再建支援、土地の再配分、生活補助……」

「それでも動かんか」

「“本当に来るのか”という声が多く」

文官は言葉を選ぶ。

「“無駄に村を捨てさせる気か”と」

「……」

セリユーは目を閉じた。

無理も無い。

「前回の侵攻の記憶が……薄れているな」

ぽつりと呟く。

「はい」

文官も頷く。

「あれは一部での出来事に留まりましたから全ての村が被害を受けた訳ではありません」

「……だから実感がない」

「はい」

「“自分達は大丈夫だ”と」

セリユーは小さく息を吐いた。

「人は、見たものしか信じない」

低く言う。

「聞いた話では動かん。ましてや村を捨てるなど」

手を軽く握る。

「簡単に決断出来るものではない」

「はい……」

別の報告書に目を落とす。

「こちらは?」

「一部、従う村もあります」

「だが動きは遅い。荷の整理に時間が掛かっております」

「……当然だな」

家。畑。家畜。

全てが生活そのものだ。

「“すぐに動け”と言われて動けるものではない」

セリユーは静かに言った。

「……だが」

目を開く。

「時間は無い」

それが現実だった。

「……段階を分ける」

ぽつりと呟く。

「段階、ですか?」

「ああ」

セリユーは顔を上げた。

「いきなり全てを動かすから反発が出る。ならばまずは“動ける者”から動かす」

「老人、子供。優先的に避難させる。残る者は、後で動かす」

「……それなら心理的な抵抗も減るかと」

「ああ」

「“全てを捨てる”ではなく“一部を先に守る”だ。そして」

セリユーは続ける。

「訓練も見せる。他の村の動きを見せる。実際に動く様子を見せれば実感が出る」

「……なるほど」

文官が頷く。

「……急がねばならん」

セリユーは低く言った。

「彼らが理解した時では遅い。理解する前に動かす」

その言葉には迷いがなかった。

窓の外を見る。

村人達は、いつも通り動いている。

何も変わらぬ日常。

「……そのままでは守れん」

小さく呟く。

守る為には動かさねばならない。

たとえ反発されようとも。

その決断を下すのが、今の自分の役目だった。