軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

隠す備え

「……流れは読めるな」

机の上の報告書に目を落としながら、父は静かに呟いた。

「今年は不作の影響で、流通量は全体的に減っております」

文官が答える。

「ああ」

頷く。

「だが今は冬備えの時期だ。多少流通が増えたところで、不自然とは思われん」

「はい」

「商人共も“季節の動き”と見るだろう」

指で軽く机を叩く。

「戦の備蓄とは考えまい」

「……確かに」

文官も納得する様に頷いた。

「むしろ」

父はわずかに目を細める。

「本当に戦の気配が出れば、あいつらは黙っておらん。必要な物に色を付けてくる」

「はい……」

苦い顔で文官が答える。

「過去にも何度かあった事を知っている」

父は短く言った。

「だからこそ——今だ」

空気がわずかに締まる。

「備蓄は、この時期に進める。冬支度の名目で、自然に増やす」

「……では」

「避難対象の村に物資を回す」

父は地図を指す。

「分散させて集積する。一箇所に偏らせるな。目立つ」

「承知しました」

「食料だけではない。資材もだ。木材、縄、簡易資材。全てだ」

「はい」

文官が筆を走らせる。

「守りは後だ」

父は続ける。

「資材が揃ってから、一気にやる。柵、障害物、見張り台。短期間で形にする」

「……なるほど」

「長々とやれば、必ず嗅ぎつけられる」

「はい」

「一気にやるからこそ、隠せる」

「……」

文官が小さく息を呑む。

「商人だけではない」

父は低く言った。

「間者もいる」

空気が一段冷える。

「北部方面に、どれだけ入り込んでいるか分からん」

「……」

「いない前提で考えるな。いる前提で動け」

「はっ」

文官が強く頷く。

「報告経路の見直し。人員の確認。不自然な動きの洗い出し。すぐに進めます」

「ああ」

父は短く答えた。

「表は平常。裏で備える。それでいい」

静かに言い切る。

「敵に“気配”を見せるな」

「はい」

「準備が整うまで——何も起きていない様に見せろ」

「承知しました」

文官は頭を下げ、急ぎ部屋を出ていく。

父は一人、地図を見つめた。

村。道。集積場所。線を引く。

「……隠す、か」

小さく呟く。

守る為の準備は、時に見せてはならない。

見えた瞬間、崩される。

だからこそ——

「気付かせん」

静かに目を細める。

外では、冬の風が強く吹いていた。