軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

内側から崩す

次の町では、クラウス——シュトライヒ達は、特に目立った動きは見せなかった。

市場に出て、商いを行い。

必要な物を仕入れ、売り。

人と話し、情報を拾う。

それだけだ。

火も付けない。

井戸にも手を出さない。

ただの商人として、そこに居た。

「……こんなもんか」

シュトライヒは荷をまとめながら呟く。

「はい。特に問題もありません」

「だろうな」

それでいい。

“何も起きない場所”を作る事もまた、重要だ。

そして——

「行くぞ」

次の町へ。街道を進む。

数日後。

視界の先に、大きな町が見えてきた。

「……でかいな」

ぽつりと呟く。

石造りの建物。

出入りする荷馬車の数。

人の流れ。

明らかに、これまでの町とは規模が違う。

護衛役が小声で言う。

「シュトライヒ様」

「何だ?」

「どうやらこの町は、工房が多数あるそうです」

「……工房?」

シュトライヒの目が細くなる。

「はい。武器や防具などを製造していると」

「……成る程な」

一瞬で、価値を理解する。

「どうしますか?」

護衛役が尋ねる。

シュトライヒは少し考えた。

「どうって……」

そして、口元を歪める。

「ここでは——やるぞ」

空気が変わる。

「ただし」

視線を前に向けたまま続ける。

「どうやるかは、まだ決めていない」

「……はい?」

「まずは商いだ。情報収集も併せてな」

「解りました」

護衛役は頷く。

「任せて下さい」

数日後。

「シュトライヒ様」

報告が上がる。

「情報を集めました」

「言え」

「比較的大きい工房は三か所。武器、防具を製造しております」

「……三か所か」

シュトライヒは地図に視線を落とす。

位置関係。

人の流れ。

搬入経路。

全て頭に入れていく。

「成る程な……」

ぽつりと呟く。

「武器工房をやるぞ」

護衛役が即座に頷く。

「解りました。それではいつも通り——」

「いや」

シュトライヒが遮った。

「待て」

「……?」

護衛役が首を傾げる。

シュトライヒはゆっくりと顔を上げた。

「工房で働いてる奴の情報を集めろ」

「は?」

一瞬、理解が追いつかない。

「働いてる奴……ですか?」

「そうだ」

シュトライヒは淡々と答える。

「人数。出入りの時間。誰と誰が繋がっているか。酒場に行く奴は誰か。家族構成」

「……」

護衛役は言葉を失った。

「時間を掛けていい。全部拾え」

「……何を、するおつもりで?」

思わず聞く。

シュトライヒはわずかに笑った。

「工房を壊す方法なんて、いくらでもある。火を付ける。材料を潰す。道具を壊す」

「だがな——」

一歩、近づく。

「それだと“直る”」

「……」

「壊れても、また作る。時間が経てば、元に戻る」

静かな声だがその内容は冷たい。

「だから」

一拍。

「“人”を崩す」

護衛役の背筋に、冷たいものが走る。

「人……」

「ああ」

シュトライヒは頷く。

「働く奴が動けなくなれば、工房は止まる。誰も作れない。誰も動かせない」

「……」

「内側から止める。その方が、長く効く」

完全に理解した。

これは——破壊ではない。

「……侵食、ですな」

「そういう事だ」

シュトライヒは小さく笑う。

「だから急がない。時間を掛けて、確実にやる」

「……解りました」

護衛役は深く頷いた。

「情報を集めます」

「ああ」

シュトライヒは再び地図に目を落とす。

「急ぐな。だが、見逃すな。一つでも穴があれば、そこから崩す」

静かな声。

その目は、既に“人”を見ていた。

建物ではない。

物でもない。

人間そのものを。

「……さて」

小さく呟く。

「どこから崩れるかな」

その言葉はまるで、壊れるのを楽しんでいるかのようだった。