軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

広がる違和感

「火事だ!倉庫が燃えてるぞ!!」

怒号が町に響いた。

夜明け前。

まだ人が動き出す前の時間。

それは突然だった。

「水を持ってこい!早くしろ!!」

「畜生、どこから火が——!」

燃え上がる炎。

乾いた藁と木材が、一気に火を広げる。

備蓄倉庫。

冬に備えた穀物が詰まった場所。

そこが——燃えていた。

「止まらん……!」

「風が強い!」

火は隣へ、さらに隣へと移る。

消すどころか、近づく事すら難しい。

「中の物は!?」

「もう駄目だ!!」

積み上げられていた穀物袋は、既に黒く焦げていた。

その量は一部ではある。しかし——決して軽くない。

「誰だ……!」

「誰がやった……!」

だが答えは出ない。

見た者はいない。

音も無かった。

ただ——気付いた時には燃えていた。

「……どういう事だ」

翌朝。

領主館の一室。

机を叩く音が響いた。

「原因は不明か?」

「はっ」

部下が頭を下げる。

「火の気は確認されておりません」

「見張りは?」

「異常なしとの報告です」

「……あり得んだろうが!」

怒声が飛ぶ。

「火が出たんだぞ!?原因が無い訳があるか!」

「申し訳ありません!」

しかしいくら調べても。

「分からぬのか……」

「……はい」

ただ燃えた。

それだけだった。

数日後。

「……またか」

同じ様な報告が入る。

「別の倉庫で小規模な火災」

「被害は軽微ですが……」

「……」

偶然か?

それとも——

「狙われているのか……?」

誰も答えられない。

さらに数日後。

「……気分が悪い」

井戸の前で、男が膝をついた。

「おい、大丈夫か?」

「……吐き気が……」

その場に嘔吐する。

周囲がざわつく。

「どうした!?」

「分からん……急に……」

「俺もだ……腹が……!」

一人、また一人。

体調を崩す者が出る。

「疫病か!?」

「いや、そんな話は——」

「水じゃないか?」

誰かが言った。

一瞬、空気が止まる。

「……水?」

「井戸だ」

「ここ最近、ここを使ってる連中が……」

ざわめきが広がる。

「まさか……」

「毒か!?」

「誰がそんな事を……!」

証拠は無い。

井戸を覗いても、ただの水。

濁りも無い。

匂いも無い。

「……分からん」

誰も断言できないが。

「使うな!!」

叫び声が響く。

「この井戸は使うな!他の井戸を使え!!」

混乱が広がる。

水を巡って、人が争い始める。

「……おかしい」

領主が低く呟いた。

「倉庫の火災」

「井戸の異常」

「偶然にしては、重なりすぎている」

部下が恐る恐る言う。

「……誰かが、やっていると?」

「分からん」

領主は首を振る。

「だが——」

視線が鋭くなる。

「何かが、起きている」

机の上の報告書。

被害はまだ限定的。

確実に。

「……削られている」

食料。

水。

人の安心。

目に見えない何かが。

じわじわと。

確実に。

侵食していた。

「……気味が悪い」

誰がやっているのか分からない。

どうやっているのかも分からない。

ただ。

「止められない」

それだけが、はっきりしていた。

遠く離れた町。

煙が、まだ細く上がっている。

それを見ている者はいない。

戦は——もう始まっていた。