軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

笑う罠と捻れた守り

「……しかしな、クラウスよ」

領主は腕を組み、ぐるりと周囲を見渡した。

擬装された“村”。

外から見れば穏やかそのもの。

煙が立ち、畑があり、納屋があり、牛小屋まである。

戦の匂いなど、一切しない。

「田畑まで仕込むのは、やり過ぎではないか?」

ふと漏らした言葉だった。

クラウスが「ん?」と首を傾げる。

「田畑?」

「ああ。あそこだ」

村の外側。耕されたように見える畑。

普通の農地にしか見えない。

「ああ、あれですか」

クラウスは、あっさり言った。

「あれは落とし穴が仕込んであります」

「「……は?」」

父上とグレゴールが固まる。

「落とし穴……だと?」

「はい」

クラウスは悪びれもせず続けた。

「外側の列は“全部”」

「全部!?」

「ええ」

にこやかに頷く。

「馬ごと落ちます」

「……」

「真ん中の列は何もありません」

「……ほう?」

「そして一番手前は——」

にやり、と笑う。

「また落とし穴です」

一瞬の沈黙。

そして。

「……くくく」

領主が肩を震わせた。

「本当に捻れておるな、お前は」

「ありがとうございます」

「褒めておらん」

だが、口元は笑っている。

「つまりこうか」

領主が指折り数える。

「一個目で引っかかる」

「はい」

「次は騙されぬぞ、と慎重に進む」

「はい」

「何も無い」

「はい」

「安心する」

「はい」

「そして最後に——また落ちる」

「その通りです」

クラウスが楽しそうに頷く。

「可哀想に」

グレゴールが呆れ顔で言う。

「敵が、ですか?」

「ええ」

クラウスは真顔で答えた。

「油断した罪ですね」

「……恐ろしい男だ」

正面から斬るのが戦。

だが、これは。心を削る戦い方だ。

疑心暗鬼。

疲労。

恐怖。

兵が一番嫌う類の罠。

「他には?」

領主が尋ねる。

クラウスは当然のように答えた。

「国境までの街道ですが」

「うむ」

「数キロごとに簡易柵」

「ふむ」

「馬の脚を壊す罠」

「……」

「意味も無い目立つ目印」

「……は?」

「そして本命は別の場所に」

にやり。

「敵が“警戒する場所”は全部ハズレです」

グレゴールが頭を抱えた。

「……もはや性格が悪い域ですな」

「効率的と言ってください」

「同じ意味だ」

領主は大きく息を吐いた。

「しかし……」

遠くの森を見る。

もし隣国が侵攻してきたら。

正規軍。騎兵。物量。

真っ向からぶつかれば、不利。

「ここまで細かく削られれば……」

「到着する頃には、半分以下でしょうな」

グレゴールが言う。

「戦う前に、戦意が折れます」

クラウスが静かに言った。

「兵は、痛いのと怖いのが一番嫌いですから」

「……」

「戦う前に帰りたくなる様にする。それが一番安上がりです」

領主は、しばらく黙っていた。

そして。

ふっ、と笑う。

「エドワルドは真っ直ぐ守る」

「はい」

「お前は性格悪く守る」

「光栄です」

「やはり兄弟だな」

グレイス領は。

正面からも、裏からも、守られている。

気付かぬうちに血を抜かれる森。

笑いながら罠を張る兄。

「……頼もしい限りだ」

領主は小さく呟いた。

この領地は。簡単には、食われない。

敵が来る頃には——

もう、戦う気力すら残っていないだろうから。