軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

草に眠る城、牙を隠す村

森を抜けた先。

そこに見えるのは——

どこにでもある、小さな村だった。

煙が立ち、柵があり、家畜小屋が並び、子供が走り回っていてもおかしくない、そんな光景。

領主は腕を組んだ。

「……これが?」

「はい、父上」

隣でクラウスが笑う。

「今までこの世に無い、新たな城をお見せします」

「城……だと?」

どう見ても村だ。

だがクラウスは迷いなく中へ入っていく。

領主とグレゴールも後に続いた。

そして——

一歩、踏み入れた瞬間。

「……これは」

領主の目が細まる。

村では、ない。

通路は狭く、意図的に曲がりくねっている。

荷車が速度を出せない幅。

家に見えた建物は、厚い板壁。

矢狭間が隠されている。

納屋と思っていた建物の二階には、兵が潜める足場。

柵と思っていたものは、即席の防壁。

「……紛れもない、城だな」

「はい」

クラウスが頷く。

「しかも“戦専用”です」

その時。上から視線を感じた。

見上げる。

「……木の上か」

大木の枝葉の中。

完全に溶け込んだ見張り台。

兵が伏せている。

言われなければ絶対に気付かない。

「見張り台です」

クラウスが説明する。

「普通は鐘を鳴らしますが」

「うむ」

「ここでは紐で引っ張って知らせます」

「……紐?」

「はい」

クラウスが示す。

細い縄が、地面の建物へと伸びている。

「中で静かに合図を出す仕組みです」

領主が目を細める。

「……つまり、敵に“気付かれた”と悟らせない」

「……ほう」

「音が出ません。だから敵は“まだ見つかっていない”と油断します」

静かに。知らぬ間に。包囲される。

「グレゴールよ。如何思う?」

隣を見る。グレゴールは苦笑していた。

「恐ろしい物を作りましたな……」

「だろう?」

「村に見せかけた罠です」

その通りだった。

もし敵軍が来たらどうする?

答えは簡単だ。兵のやる事は決まっている。

焼く。

奪う。

攫う。

食料を奪取する。

つまり——

「必ず“村”に入ってくる」

クラウスが続ける。

「そして入った瞬間、袋の鼠です」

屋根から矢。家から槍。森から伏兵。

退路は狭い。馬は動けない。

「……いや」

領主は小さく笑う。

「その前にやられるな」

「はい」

「引きつければ引きつけるほど、効果は高い」

「その通りです」

外見は無防備。中身は要塞。

これ以上、嫌らしい砦は無い。

クラウスが振り返る。

「如何ですかな?父上」

領主は、しばらく黙ってから。

ふっと笑った。

「クラウスよ……」

「はい?」

「ここまで捻くれたか?お前は」

クラウスが肩をすくめる。

「ええ」

ニヤリと笑う。

「何処かの優秀な弟様が、真っ直ぐすぎましてな」

「……ほう」

「その反動で、兄は捻くれました」

グレゴールが吹き出す。

「ははは」

領主も笑った。

「ふふふ……」

そして、息子の肩を叩く。

「頼もしい限りだ」

正面から戦うのがエドワルド。

裏から刺すのがクラウス。

「……いいバランスだ」

この兄弟なら。

この領地は、簡単には落ちない。

森に溶ける村。牙を隠した城。

グレイス領は——

静かに、だが確実に。

戦国の世を、生き残る準備を整えていた。