軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

草に消える砦

街道を外れ、森の中へ入っていく。

普通なら道など無いはずの場所だ。

だが、先導する兵は迷いなく進んでいる。

「……この辺りのはずだが」

領主が呟いた、その時。

グレゴールが目を細めた。

「領主様」

「何だ?」

「あれでは?」

指差した先。木々の隙間。

遠くに、屋根が見える。

煙も立っている。家畜小屋らしき影。

畑らしき土の色。

「……村?」

領主は眉をひそめた。

「こんな所に村など無いはずだ」

地図にも無い。報告にも無い。

だがどう見ても——村だ。

「これか……」

ゆっくりと息を吐く。

「擬装、か」

「知らなければ、普通の村にしか見えませんな」

「ふふふ……」

思わず笑いが漏れる。

「ここまでやるか、クラウスよ」

倉庫を家に見せ。柵を家畜小屋に見せ。

兵舎を納屋に偽装。遠目には、ただの農村。

だが実態は。

砦。

「如何やらお目当ての場所の様だな」

そう言って一歩踏み出した瞬間——

「——動くな!!」

森の奥から怒声。全員が凍り付いた。

「狙っておるぞ!」

「!?」

護衛が一斉に剣に手をかける。

「まさか盗賊が……!?」

姿が、見えない。

声のした方向を見ても——人影が無い。

「どこだ……?」

「気配が無い……?」

完全に、見失っている。

領主も無意識に周囲を警戒する。

木。草。岩。どこを見ても自然だけ。

……気配すら掴めんだと?

背筋に冷たいものが走る。

その時。

「——動くな!」

今度は背後。

「なっ!?」

「囲まれている……!?」

護衛がざわめく。前も後ろも横も。

どこからでも声が飛んでくる。

しかし姿が、無い。

馬鹿な……完全に包囲だと……?

領主が初めて、本気で肝を冷やした、その瞬間。

「あはは!」

聞き慣れた声。

「父上!」

「……!?」

「クラウスの声か!?」

「皆、もう良いぞ!姿を見せよ!」

ガサガサッ——!

次の瞬間。森が動いた。

草が立ち上がる。地面が起き上がる。

木が歩き出す。

「な……」

護衛が呆然とする。

数十名。

いつの間にか、完全に囲まれていた。

しかも——

全員が、草を被っている。

頭から全身まで。

枯草や枝を括り付け、布でまとめ。

まるで“草の塊”。

「……だと……?」

領主は目を見開いた。

「今まで、そこに居たのか……?」

「はい!」

クラウスが笑いながら歩いてくる。

「如何ですか?父上。訓練の成果は?」

「……肝を冷やしたぞ」

本気だ。

盗賊でも敵軍でも、全く気付けなかった。

「しかし何だ、その格好は」

「これですか?」

草を払いながら答える。

「森の中では、更に木の枝を刺して姿を消します」

「枝……?」

「狩人が獣を狩る時にする格好だそうです」

なるほど、とグレゴールが頷く。

「擬装か」

「はい。兵にも応用してみました」

「……狩人の知恵を軍に、か」

領主は腕を組んだ。

「面白い」

正面から戦うのが軍。そう思っていた。

「気付かれなければ、戦う前に勝てる」

クラウスがニヤリと笑う。

「父上も今、気付かなかったでしょう?」

「……ああ」

素直に認める。

「完全にやられた」

もしこれが敵なら。

矢の一斉射で終わっていた。

「伏兵、待伏せ、奇襲……」

領主は小さく笑った。

「お前も随分と“嫌らしい”戦い方を覚えたな」

「褒め言葉として受け取ります」

「当然だ」

この時代。正々堂々は死を意味する。

生き残るのは、狡い者だ。

「……頼もしくなったな、クラウス」

息子の肩を軽く叩く。

クラウスは少しだけ照れた顔をした。

森の中。草に消える兵たち。

偽装された砦。誰にも気付かれない守り。

グレイス領は、静かに。

だが確実に——

戦う国へと、変わり始めていた。