軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう一つの志願

朝の空気がまだ冷たい。

元領主館の町——

即席の司令部前で、エドワルドは物資の配分表を眺めていた。

補給はギリギリ。救助は継続中。

兵は常に不足。

「……人手が、いくらあっても足りんな」

そう呟いた、その時。

足音。

「エドワルド様」

顔を上げると、レオン が、どこか困った顔で立っていた。

珍しい。

戦闘でも動じない男が、

明らかに“言いづらそう”にしている。

「どうした?」

「……報告です」

「敵か?」

「いえ」

「補給不足?」

「いえ」

「じゃあ何だ」

一拍置いて、レオンが口を開く。

「女性達から、です」

「……は?」

意味が分からず、間の抜けた声が出た。

「女性?」

「はい」

咳払い一つ。

「如何やら、うちの女兵を見て志願したいと」

「志願?」

「はい。『私達も戦える』『手が空いた時だけでも手伝わせろ』と」

「……」

思考が止まる。

「いや、しかし……」

「はい……」

レオンは深くため息を吐いた。

「私も最初は断ろうとしたんですが……」

その顔を見て、嫌な予感がした。

「どうなった」

「……押し切られました」

「……」

「……」

数秒の沈黙。

そして。

「あはは!」

思わず吹き出した。

「父上と同じ状況になってしまったのか!?」

「はい……」

レオンが本気で困った顔をする。

「面目ございませんが……中々の圧力で……」

「圧力ってお前」

「男ならぶん殴って黙らせられますが」

真顔で言うな。

「女ともなると……流石に……」

「確かに!」

腹を抱えて笑う。

「レオンがそんなに困るとはな!」

「笑い事じゃありませんよ……」

本気で疲れた顔だ。

「数が、地味に多いんです」

「何人くらいだ?」

「二十……三十……いや、もっと増えそうです」

「増えてるのかよ」

「『あの人も行くなら私も』状態です」

連鎖しているらしい。ふぅ、と息を吐く。

笑いながらも、胸の奥が少し熱い。

逃げてもいい。

守られる側にいてもいい。

なのに。

「……戦いたい、か」

レオンが小さく頷く。

「女兵の姿を見て、火が付いたんでしょうな」

クロスボウを構える女性兵。

堂々と立つ姿。

あれは確かに——格好良かった。

「……止める理由は、無いな」

「よろしいので?」

「ただし」

指を立てる。

「正規兵扱いはしない」

「はい」

「手の空いた時だけ。あくまで補助だ」

「了解」

「軽く……そうだな」

少し考える。

「同じ装備でいい」

「同じ?」

「短剣、槍、クロスボウ」

レオンが目を丸くする。

「本格的ですな」

「どうせやるなら、ちゃんと教えろ」

中途半端が一番危ない。

「怪我するくらいなら、最初から鍛えた方がいい」

「……確かに」

「それに」

遠くで作業する女兵たちを見る。

笑いながら、クロスボウを整備している。

「戦える者は、多い方がいい」

今はもう。男も女も関係ない。

生き残れるかどうか、それだけだ。

レオンは苦笑した。

「……承知致しました」

「だがな」

「はい?」

「無茶はさせるなよ」

「もちろんです」

「死なせるために教えるんじゃない」

一拍。

「生き残らせるためだ」

レオンは、ゆっくり敬礼した。

「了解」

去っていく背中を見送りながら、エドワルドは小さく呟いた。

「……本当に、時代が変わったな」

昔なら考えられない。女が武器を持つなんて。民が軍になるなんて。

王もいない。秩序もない。

だが。

「……だからこそ、全員で生きるしかない、か」

遠くで、訓練の掛け声が上がる。

新しい時代の音だった。