軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

空白の村と消えない灯

偵察を王都へ放ってから、数日が過ぎた。

思っていたより、長い。

たった数日。されど数日。

待つ側に回ると、時間はやけに遅く感じる。

「……まだ戻らんか」

元領主館のバルコニーから外を見る。

街道、森、遠くの丘。

どこにも、三人の影はない。

当然だ。往復だけでも相当な距離だ。

理屈では分かっている。

分かっているのに、落ち着かない。

「本日の報告です」

レオンが紙束を持って現れた。

「周辺偵察、四方向とも異常なし」

「異常なし……か」

「はい」

顔は晴れない。

「村は?」

「……全滅です」

淡々と告げる。

「人の気配、生活痕、火の跡。どこにもありません」

「……そうか」

椅子に深く座る。この元領主館を拠点に、毎日偵察を出している。

半日圏内。一日圏内。少しずつ範囲を広げて。

だが。

見つかるのは——

崩れた家。打ち捨てられた畑。朽ちた井戸。

そして。

「元村……ばかりだな」

「ええ」

“村”とは、もう呼べない。

人がいなければ、ただの廃墟だ。

「……一人も居ないのか?」

「はい。獣の方が多いくらいです」

冗談でも何でもない。本当に、そんな世界になっていた。地図を眺める。

かつて、点在していた小さな村々。

炭焼きの村。農村。猟師の集落。

全部、×印。

全部、空白。

「……もう無理なのか?」

ぽつりと呟いた。誰に言ったわけでもない。

助ける。守る。救う。

そう息巻いて始めたが。

肝心の“人”がいない。

遅すぎたのか?俺たちは。

レオンが黙っている。

慰めもしない。否定もしない。

ただ、隣に立っている。

それが、ありがたかった。

コンコン。

扉が叩かれる。

「報告!」

伝令が駆け込んできた。

「曙町より連絡!」

「曙町?」

「はい!」

息を切らしながら続ける。

「山側から生存者を確認!さらに数十名を保護したとのこと!」

「……何人だ?」

「およそ三十から四十!」

思わず顔を上げた。

「そんなにか」

「はい! 怪我人多数ですが、全員生存!」

胸の奥が、少しだけ軽くなる。

「やるな、あいつら」

レオンがニヤリと笑う。

「山狩りは得意ですからね」

曙町の連中は元猟師や山民が多い。

森と山に関しては、俺たちより何倍も鼻が利く。

「隠れてた連中を引っ張り出したか」

「でしょうな」

「……まだ、居るんだな」

消えてない。この世界には、まだ。

助けられる命が、ちゃんと残ってる。

窓の外を見る。

夕焼け。赤く染まる空。

廃墟ばかりの大地。でも、ゼロじゃない。

「王都組が戻ったら、範囲を広げる」

「さらに遠くへ?」

「ああ」

まだ居るなら。一人でも居るなら。

「探すしかないだろ」

レオンが小さく笑った。

「相変わらず、諦めが悪い」

「悪いか?」

「いえ」

少しだけ、優しい顔で。

「領主としては、満点です」

照れくさいから、無視した。遠くで鐘が鳴る。今日も誰かが生き延びた合図。

静かな世界に。

まだ、灯は消えていない。

「……よし」

立ち上がる。

「明日も探すぞ」

世界が空っぽになる、その日までは。

俺たちは、歩き続けるしかないのだから。