作品タイトル不明
三人の影、王都へ
「……もう決まったのか?」
朝。まだ霧の残る中庭で、俺は目を丸くした。レオンがいつも通りの顔で立っている。
「はい」
あまりにも普通に頷く。
「二日程で準備完了しました」
「十分ってお前……」
偵察だぞ?命懸けの任務だぞ?
「精鋭を三名、選別しました」
「三人だけか」
「多ければ目立ちます。少なすぎても死にます」
肩をすくめる。
「三人が一番“消えやすい”」
……なるほど。
派手に戦う人数じゃない。
生きて帰るための人数だ。
「どんな連中だ?」
「元騎士が一人、斥候上がりが一人、弓の名手が一人」
「バランス良いな」
「ええ。戦闘も逃走も出来る組み合わせです」
さすがだ。俺には出来ない選び方だ。
俺は“人を見る目”より、“数を揃える発想”しかない。
こういうのは完全にレオンの領分だ。
「こればかりは俺じゃ無理だな」
「餅は餅屋ですよ」
軽く笑う。
「で、馬は?」
「確保済みです」
「早いな」
「騎士団から借りました」
「ああ……」
思わず天を仰ぐ。また借りか。
「本来なら俺が調達したい所なんだがな……」
本当なら。
自前で馬も、装備も、全部揃えたい。
だが現実は違う。町はまだ復興途中。
物資はギリギリ。余裕なんて無い。
「この混乱じゃ、商人も動けん」
街道は野盗だらけ。王都は崩壊。
各地は孤立。
「商売どころじゃないだろうな」
レオンが苦笑する。
「優秀な商人ほど雲隠れでしょうな」
「ああ」
間違いない。命あっての商売だ。
今この状況で荷車引いて移動するのは、自殺志願者だ。
「下手に動けば全部持ってかれる」
「商品も、金も、命も」
「そりゃ隠れる」
つまり——
「当面は、自前で何とかするしかないか」
「ええ。交易はまだ先の話でしょう」
痛いな。
物資も情報も、本来は商人が運ぶものだ。
それが止まっている今。
世界は、分断された島みたいな状態だ。
「……だからこそ、王都の情報が欲しい」
ぽつりと呟く。王都がどうなっているか。
道は使えるのか。商人は生きているのか。
勢力は誰が握っているのか。
それ次第で、未来が全部変わる。
やがて。
中庭に三人が並んだ。
軽装。最低限の武具。背嚢は小さく。
本当に“旅人”のような格好だ。
「これが精鋭か」
「はい」
三人とも無駄が無い。目が違う。
騒がず、気負わず、ただ静かに周囲を見ている。
「あまり英雄ぶるな」
俺は言った。
「戦うな。勝つな。逃げろ」
三人が同時に頷く。
「情報だけ持って帰れ」
「了解」
短い返事。それで十分だった。馬に跨る。
騎士団から借りた栗毛の馬が鼻を鳴らした。
「……無事に帰って来い」
誰に言ったのか分からない。
三人か。王都か。それとも自分か。
レオンが手を上げる。
「出発!」
カッ、カッ、カッ……
蹄の音が、朝の空気に溶けていく。
王都へ。三つの影が、ゆっくりと小さくなっていった。
「……行ったな」
「ええ」
静寂が戻る。だが胸の奥が、少しだけ重い。
偵察。ただそれだけのはずなのに。
「嫌な予感がする」
「大体当たりますよ、それ」
「やめろ」
苦笑する。それでも目は、西から離れない。
あの崩れた都に。何が残っているのか。
三人が持ち帰るのは——
希望か。それとも。
この世界の、さらに深い絶望か。