作品タイトル不明
森に残った小さな灯
森は静かすぎた。風も弱い。鳥も鳴かない。
「……嫌な静けさですな」
レオン配下の団員が小声で言う。
「森ってのは普通、もっと音がする」
レオンは頷いた。
「何かがいる証拠だ。全員、警戒を上げろ」
隊列は細長く伸びる。
先頭に騎士二名。
左右に民兵。
後方に女性クロスボウ隊。
そして中央にガレス。
「小屋までは、あと十分ほどだ」
「野盗は?」
「昨日、足跡を見た。恐らく近い」
つまり。いつ襲われてもおかしくない。
ザッ……ザッ……
落ち葉を踏む音が、やけに大きく響く。
その時だった。
ヒュッ!
「伏せろ!」
矢が一本、木盾に突き刺さった。
「右だ!」
「数は三、いや五!」
茂みから飛び出してくる影。痩せ細った男たち。だが目だけが獣だ。
「食料だ!奪え!」
野盗。いや。元農民か、逃亡兵か。
もう区別は付かない。ただの「奪う側」だ。
「前進!押し返せ!」
レオンが怒鳴る。
ガキィン!
槍と剣がぶつかる。
民兵は最初こそ硬直したが——
「う、うおおお!」
必死に突き出すが訓練不足明らかだ。
だが。守る理由がある者は、強い。
ドスッ!
野盗の一人が槍で貫かれ、倒れる。
「くそっ、弓だ!」
別の男が弓を引く。その瞬間。
バシュッ!!
乾いた音。矢が一直線に飛ぶ。
胸を撃ち抜いた。
「……クロスボウ隊、命中!」
女性兵の声が震えている。
だが確実に当てた。
「怯むな!囲め!」
レオンが一気に詰める。
数分。それだけだった。
野盗は二人倒れ、残りは逃げた。
「深追いするな!」
森が、再び静かになる。
荒い息。鼓動。血の匂い。
「……被害は?」
「軽傷二名。戦闘続行可能!」
「よし」
ガレスが小さく呟いた。
「……助かった」
「まだ終わりじゃない」
レオンが顎で示す。
「小屋だ」
木々の奥。小さな煙。崩れかけた狩人小屋。
「——合図を出せ」
騎士が声を上げる。
「俺だ!ガレスだ!迎えに来た!」
数秒の沈黙。やがて。
ギィ……
扉が、わずかに開いた。中から小さな顔。
汚れた子供。
「……だれ?」
怯えた声。ガレスが兜を外す。
「もう大丈夫だ」
優しく言う。
「迎えが来た」
子供の目が、大きく開いた。
「……ほんと?」
「ほんとだ」
その瞬間。中から次々と人が出てきた。
老人。母親。怪我人。幼子。
皆、痩せ細っている。
それでも。
光を見る目だった。
一人の少女が、騎士に駆け寄った。
「おじちゃん……」
「……ああ」
騎士が膝をつく。
「遅くなったな」
少女は、ぎゅっと抱きついた。
声を殺して泣く。
「もう、こわい人、来ない……?」
「来ない」
騎士は即答した。
「もっと強い人たちが来た」
その視線の先。民兵たち。クロスボウ隊。
混成の兵たち。少女は、そっと周りを見る。
「……この人たち?」
ガレスが頷く。
「そうだ」
「この人が、新しい仲間だ」
一瞬、間。少女は、ぺこりと頭を下げた。
「……ありがとう」
たった一言。それだけで。皆、胸が妙に熱くなった。戦って。奪って。進軍して。
それでも。
この一言のために、ここまで来た気がした。
「……行こう」
静かに言う。
「町に帰るぞ」
子供が手を繋ぐ。騎士と民兵と女性兵と皆で。森の中の小さな灯が。
ゆっくりと、町へ向かって動き出した。
それは。
敗走でも逃亡でもない。
——帰還だった。