作品タイトル不明
森に残された灯
会談が終わった後。
ガレスは、地図の上を指でなぞった。
「我々の民は、ここにいる」
「森の中か?」
「ああ。街道から外れた古い狩人小屋だ」
指先が止まる。
「元は山番の詰所らしい。水場が近い。隠れるには丁度いい」
「人数は?」
「三十七名」
思ったより多い。
「内訳は、女と子供が大半だ。老人もいる。動ける男はほとんどいない」
つまり。
騎士たちはずっと“守り続けていた側”ということだ。
レオンが腕を組む。
「騎士が二十いて、守る民が三十七……か」
「戦力としては最悪だな」
ガレスは苦笑する。
「だから森から出られなかった」
納得だった。もし野盗に見つかれば終わり。
町にも近付けない。かと言って見捨てることも出来ない。
「ずっと、隠れていたのか?」
「ああ」
「食料は?」
「狩りと、わずかな備蓄だ。正直、もう限界だった」
だから白旗を掲げて接触してきた。
偶然ではない。追い詰められた末の選択だ。
エドワルドは即答した。
「連れて来い」
ガレスが目を上げる。
「いいのか?」
「当たり前だ」
迷いはなかった。
「守るために戦ってたんだろ?なら、もう逃げる必要はない」
地図を軽く叩く。
「ここが拠点だ」
「俺たちが守る」
その言葉に。ガレスの目が、わずかに揺れた。騎士として。ずっと“守る側”だった男。
それが初めて。誰かに「守る」と言われた。
「……情けない話だな」
小さく笑う。
「少し、肩の荷が下りた」
レオンが口を挟む。
「迎えは出しますか?」
「ああ。護衛を付けろ」
「騎士だけでは目立つ」
「うちの民兵と混成にしろ」
「了解」
すぐに編成が始まる。
騎士五名。
民兵十名。
女性クロスボウ隊四名。
護衛としては十分だ。
「森は危険だ。野盗の痕跡もある」
レオンが真顔で言う。
「戦闘の可能性ありです」
「構わん」
エドワルドは答える。
「一人も落とすな。それだけだ」
「はっ」
出発準備が整う。騎士たちが馬に跨がる。
その背中は、どこか軽く見えた。
もう“逃亡”ではない。
“迎え”だからだ。
ガレスが振り返る。
「エドワルド殿」
「何だ」
「……恩に着る」
「礼は要らん」
肩をすくめる。
「その代わり、働いてもらうぞ」
「望むところだ」
馬が駆け出す。土煙が上がる。
それを見送りながら、レオンが呟いた。
「妙な気分ですな」
「何がだ?」
「昨日まで敵かもしれん連中が、今日は味方です」
「乱世ってやつだ」
「違いない」
町の外を見る。崩れた家々。焼けた石壁。
死んだはずの町。
今は、少しずつ人が増えている。
保護民。騎士団。難民。
立場も出自もバラバラだ。
それでも。同じ方向を向いている。
「……寄せ集めだな」
エドワルドは苦笑する。
「だが」
小さく続けた。
「悪くない」
国は滅んだ。王も消えた。
人はまだ、誰かを守ろうとしている。
それなら。この場所は、きっと立て直せる。やがて森の奥。
小さな灯が、こちらへ向かって動き出す。
騎士たちが守り続けた、最後の民。
その灯がこの町の、新しい命になる。
そんな気がしていた。