軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

灰の王都、折れた剣たち

白旗の騎兵たちは、すぐには去らなかった。

町外れ。

壊れた石造りの倉庫を借り、簡易の会談の場が設けられた。互いに兵は外で待機。

中に入ったのは、

エドワルド

レオン

そして騎士団長ガレスと副官ら数名のみ。

扉が閉まる。妙に静かだ。

「……で、情報交換だったな」

レオンが腕を組む。

「まずは王都の話を聞かせてもらおうか」

ガレスは、しばらく黙っていた。

まるで、思い出すのも嫌だと言わんばかりに。だがやがて、低い声で語り出す。

「最初は不作だった」

「それだけなら、いつもの年と変わらん」

「だがな……商人が消えた」

「消えた?」

「東も西も街道が閉じた。流通が止まった。倉庫が空になった」

エドワルドはハッとする。

小麦価格の異変……西側で戻らない……

父の報告と一致する。

「三日でパンが倍。五日で三倍」

「十日後には——金を積んでも買えなくなった」

室内の空気が重くなる。

「飢えた民が倉庫を襲い、兵が鎮圧」

「死体が転がる。翌日、さらに倍の暴動」

ガレスは拳を握る。

「騎士団は王命で出動した」

「だが命令はこうだ」

苦々しく吐き捨てた。

『見せしめにせよ』

沈黙。

「つまり?」

レオンが聞く。

「……吊るせ、だ」

処刑。公開処刑。恐怖で押さえつけろという命令。

「何人も、何十人も、広場に吊るされた」

「だがな」

ガレスの目が怒りに染まる。

「それで止まるなら、民は暴徒にならん」

「死んだのは……兵の家族も同じだった。配給は貴族優先。兵の家族すら飢えた」

「だから」

ゆっくりと言う。

「兵が、命令を拒否し始めた」

内部崩壊。軍の瓦解。

「ある日、王城に火が入った」

「誰が放ったか分からん」

「気付けば貴族街も燃えていた」

「略奪。私刑。裏切り」

「そして——」

ガレスの声が震える。

「王は、逃げ遅れた」

それ以上は言わなかった。言わなくても分かる。引きずり出され。殺された。王政は、そこで終わった。

しばらく沈黙が続いた。

レオンが小さく呟く。

「……国が死んだわけですな」

「ああ」

ガレスは頷く。

「我々は残った民を連れて脱出した。だが」

視線を落とす。

「全員は守れなかった」

悔恨が滲む。エドワルドは静かに言った。

「それでも、お前たちは民を連れてきた」

「……」

「それだけで十分だ」

ガレスが少しだけ目を見開いた。

その時。

後ろに控えていた若い騎士が、一歩前に出た。

「団長」

「どうした」

「発言をお許しください」

ガレスが頷く。

若い騎士は、エドワルドを真っ直ぐ見た。

「……あなた方の町を見ました」

「炊き出し。治療。子供が笑っている」

拳を握る。

「王都では、もう見られなかった光景です」

「だから」

一瞬、迷い。そして。

「私は、ここに残りたい」

空気が止まった。

「何?」

「あなた方の指揮下に入りたい」

レオンが目を細める。

「騎士が、ですか?」

「はい」

さらに。後ろから、もう二人。

「自分もです」

「俺も」

ガレスが振り返る。

「……本気か」

「はい」

若い騎士が言う。

「もう“王の騎士”ではない。ならせめて——」

エドワルドを見る。

「民の剣でありたい」

胸の奥が、少し熱くなった。

レオンが小声で囁く。

「……使えますぜ、あれは」

「だろうな」

元正規騎士。訓練済み。統率を知る兵。

今一番欲しい戦力だ。

エドワルドはゆっくり言った。

「条件がある」

「はっ」

「貴族も騎士も関係ない。ここでは全員、同じ兵だ」

「命令違反は罰する。民を傷付ければ、即刻追放だ」

「それでも来るか?」

三人は即答した。

「望むところです」

ガレスは、苦笑した。

「……取られたな」

「貸してくれたと思うことにしよう。いずれ返してもらう」

「はは、違いない」

固い握手。今度は少しだけ、温度があった。

その日。

元王都騎士団から全ての騎士が合流した。

エドワルド軍、初の“正規騎士経験者”が加わった。

そしてエドワルドは理解する。

王国は滅びた。

だが。

人までは滅びていない。

折れた剣は。まだ、握り直せるのだと。