軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白旗の騎兵

朝の空気は、妙に澄んでいた。

元領主館の町。

即席の司令部となった建物の前で、エドワルドは報告書に目を通していた。

偵察隊は異常なし。補給は順調。

保護民の受け入れも進んでいる。

静かだ。あまりにも、静かすぎる。

「……嵐の前触れみたいだな」

小さく呟いた、その時だった。

バタバタと足音。

「エドワルド様!」

レオン配下の団員が駆け込んでくる。

「どうした」

「南東街道に騎影!複数!」

空気が変わった。

「数は?」

「二十……いえ、二十騎前後!」

二十騎。

野盗にしては多すぎる。だが軍にしては少ない。

「旗は?」

「……白旗です」

「白旗?」

「はい。ただし——」

言い淀む。嫌な予感がした。

「ただし?」

「全員、完全武装」

……来たか。レオンが横に立つ。

「罠かもしれませんな」

「だろうな」

白旗を掲げて近づく。だが武装は解かない。

つまり。

いつでも戦える状態で“話し合い”に来ている。

「弓は?」

「構えています。射程外ですが、明らかに警戒しています」

苦笑が漏れた。

「向こうも同じ気持ちってわけか」

「でしょうな」

俺たちは今、

•正体不明の武装集団

•隣領を実質占拠

•拠点化

•兵力増強中

外から見ればどう見ても——

侵略者だ。

「……接触目的は?」

「恐らく偵察、威圧、交渉のどれか」

「全部だな」

レオンがニヤリと笑う。

「どうします?追い払いますか?」

少し考える。

逃げれば?→ 弱みを見せる。

撃てば?→ 即戦争。

無視すれば?→ 不信感だけ残る。

「……会おう」

レオンが眉を上げた。

「よろしいので?」

「ああ」

立ち上がる。

「俺たちは盗賊でも侵略者でもない」

腰の剣を軽く叩く。

「それを言葉で示す機会だ」

「……甘いと言いたい所ですが」

レオンは肩をすくめる。

「嫌いじゃありません」

すぐに命令を出す。

「民兵は建物内へ退避!」

「弓兵、屋上配置!」

「クロスボウ隊は隠れて待機!」

「射線は確保、だが撃つな。命令があるまで絶対に撃つな!」

バタバタと動き出す兵たち。

町が一瞬で戦時の顔になる。

やがて。土煙が見えた。

カッ、カッ、カッ、カッ……

蹄の音。白旗。

だが。

全員が鎧。剣。槍。弓。

いつでも殺しに来られる距離。

向こうも同じく、こちらを観察している。

屋上の弓。物陰の兵。隠された戦力。

「……やれやれ」

レオンが小声で言う。

「完全に睨み合いですな」

「ああ」

火花一つで終わる。騎兵の一人が前に出る。

立派な鎧。だが紋章は削られている。

「……正規軍崩れか」

「王都から流れてきた連中かもしれません」

距離、約三十歩。

互いに武器を下げない。

白旗だけが、風に揺れている。

やがて。

騎兵の男が兜を取った。

鋭い目。歴戦の顔。

「……この地を占拠している部隊の指揮官は誰だ!」

張りのある声。敵意と警戒が混ざっている。

エドワルドは一歩前に出た。

「グレイス領。エドワルド・フォン・グレイスだ」

空気が、さらに重くなる。

相手の目が細まった。

「……貴族、か」

「そちらは?」

一瞬の沈黙。そして男は答える。

「南東方面、旧バルディア領の騎士団だ」

やはり。別の領地の勢力。

つまり——

この先、同じような“群雄”がまだいる。

王国はもう、完全に崩れている。

「単刀直入に聞く」

騎士が言った。

「貴様らは——敵か?味方か?」

その一言に。

この世界の現実が、凝縮されていた。

もう国も王も無い。

あるのは。敵か、味方か。

それだけ。

エドワルドは、静かに息を吐いた。

そして答える。

「俺たちは——」

空がやけに高く見えた。

「民を守る側だ」

それが。新しい時代の、最初の外交だった。