軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

矢雨の洗礼

「——迎撃開始」

その一言で、町の空気が変わった。

ざわめきが消える。代わりに響くのは、武具の擦れる音だけ。

ガチャ、ガチャリ。

装填。弦を引く。矢羽が揃う。

元領主館を囲む石造りの建物。

その屋根と窓に、女性クロスボウ隊が素早く配置についた。

「第一小隊、北側屋根!」

「第二、東通り窓!」

「装填完了!」

彼女たちの動きに無駄はない。

元は農婦や町娘。

だが今は違う。

訓練された射手だ。レオンが短く命じる。

「撃つな。……まだだ」

敵を引き込む。確実に殺せる距離まで。

通りの奥。鎧の擦れる音が近づく。

ガシャン、ガシャン。

姿を現したのは十数名。

鉄鎧。剣盾。統一された足並み。

完全に「軍隊」の動きだった。

「……くそ、本物かよ」

民兵の一人が震えた声を漏らす。

野盗とは違う。

あれは“戦争の兵士”だ。

敵の男が叫ぶ。

「武器を捨てろ! 食料と女を差し出せば命は助けてやる!」

怒声。嘲笑。堕ちた騎士。

かつて王都を守ったはずの連中が、今は略奪者だ。

エドワルドの目が冷える。

「……距離」

レオンが測る。

「三十」

さらに近づく。

「二十五」

盾を構え、前進。連携が取れている。

素人では止められない。

「二十——」

レオンの手が上がる。そして振り下ろされた。

「——撃て」

次の瞬間。

バシュンッ!!

乾いた発射音。

一斉射。空気が裂ける。

矢の雨。

ドッ!!

「ぐぁっ!?」

「なっ——上!?」

屋根と窓からの十字射撃。

盾では防ぎきれない。

首。腿。隙間。正確に突き刺さる。

二人が即倒。

三人が膝をつく。

「第二装填! 急げ!」

ガチャッ、ガチャッ。

女性たちが震える手で次弾を込める。

それでも止まらない。

「撃て!」

第二射。

バシュン!!

「ぐっ……!」

敵の隊列が崩れた。レオンが吠える。

「今だ! 前衛、押し出せぇ!!」

「うおおおお!!」

槍兵が突撃。盾を前に押し出し、壁のように進む。

ガンッ!!

衝突。金属と木がぶつかる。

「くっ……!」

だが。

「重い……!」

やはり違う。元騎士の力は桁違いだ。

民兵が弾かれ、倒れる。

「押されるな! 隊列を崩すな!」

その瞬間。

敵の一人が民兵を蹴飛ばし、剣を振り上げた。

「死ねぇ!!」

——だが。

ギィン!!

横から刃が弾いた。

「相手が悪いな」

エドワルドだった。剣が火花を散らす。

元騎士が歯を剥く。

「ガキが指揮官か!」

「そうだ」

一歩踏み込む。鋭い斬撃。

「——っ!?」

一閃。

鎧の隙間。喉。血が噴く。崩れ落ちる。

周囲の敵が怯む。

「指揮官だと……!?」

「若造が……強ぇ……!」

レオンが笑う。

「お前らが守れなかったもんを、この坊ちゃんは守ってんだよ」

そして。

「第三射、撃てぇ!」

再び矢の雨。

混乱した敵に容赦なく突き刺さる。

統率が崩れた軍は脆い。

「退け! 退けぇ!」

「クソッ、損害がでか——」

逃走。

残党は散り散りに走り出した。

「追撃は!?」

民兵が叫ぶ。だがエドワルドは首を振った。

「深追いするな」

「ですが!」

「森に入られたら逆に狩られる。防衛優先だ」

静寂が戻る。息の荒い音だけが残った。

足元には倒れた元騎士たち。

王都の残骸。

誇りを失った成れの果て。女性隊の一人が呟く。

「……勝ったの?」

レオンが鼻で笑う。

「辛勝だ」

エドワルドは町を見渡す。

守れた。民も。拠点も。

だが。

「……これが日常になる」

誰もが気づいていた。これは始まりに過ぎない。

王都崩壊後。

職を失った兵士はまだ各地にいる。

同じような連中が、また来る。

ここはもう戦地だ。

「防衛線を強化する」

エドワルドが言う。

「柵を増設。見張り倍増。常時弓兵配置」

「この町は——砦にする」

レオンがニヤリと笑った。

「やっと“戦争”らしくなってきましたな、閣下」

遠くで、朝日が昇る。

静かな町。

だがその静けさは、もう二度と以前のものではなかった。

元領主館の町は今日。

完全に“前線基地”へと変わったのだった。