作品タイトル不明
王都の残骸
静かな朝だった。元領主館の焼け跡の隣。
臨時司令部として接収した石造りの建物。
その窓から、エドワルドは外を眺めていた。
煙は無いし怒号も無い。
昨夜送り出した偵察隊からの報告も入って来ていない。
つまり——異常なし。
「……静か過ぎるな」
「ええ」
レオンが腕を組んだ。
「嵐の前ほど静かなもんです」
周囲では、保護した民が炊き出しの列を作り、女性兵が見張りに立ち、民兵が簡単な補修作業をしている。
ようやく「町」と呼べる空気が戻り始めていた。
ここを前線拠点にする判断は、間違っていなかった。
……そう思った矢先。
パンッ!!
乾いた破裂音。
「……?」
続けて怒鳴り声。
「敵襲ーーーッ!!」
司令部の扉が勢いよく開く。
「エドワルド様!!」
伝令が転がり込んできた。
「北側見張りが襲撃されました!!」
「数は!?」
「不明! ですが統率が取れています! 野盗の動きではありません!」
レオンの目が鋭くなる。
「……軍人だな」
「その可能性が高いです!」
さらに別の兵が駆け込む。
「敵、旗持ち確認!」
「旗?」
「王都騎士団の紋章です!!」
空気が凍った。
「……王都だと?」
王都は崩壊したはずだ。なのに、何故?
レオンが吐き捨てるように言う。
「王都騎士団の残党でしょうな」
「残党……」
「職も命令も失ったが、武器と技術だけは残った連中です」
一拍。
「一番タチが悪い」
つまり。訓練された兵士、だが守る国は無い。
「……略奪者か」
「ええ。“元騎士”ほど始末の悪いもんはありません」
外から金属音が響く。
ギィン!!
剣戟。悲鳴。
「接触しました!!」
「報告!」
「鉄鎧装備! 小隊単位で連携! 完全に軍隊です!」
民兵では太刀打ち出来ない。
素人とプロ。差は歴然だ。
「目的は!?」
「住民を拘束! 食料と女を要求しています!!」
司令部の空気が一瞬で冷え切った。
レオンの声が低くなる。
「……落ちる所まで落ちましたな、騎士団」
かつて王都を守った連中が。今は民を襲っている。エドワルドは剣を抜いた。
「これは戦闘だ」
迷いは無い。
「救助対象を奪還する」
侵攻ではない。制圧でもない。
「排除だ」
レオンが笑う。久々に戦場の顔で。
「了解。団員五十、前衛展開」
「女性クロスボウ隊は高所へ配置。屋根と窓から射撃支援」
「はっ!」
「民兵は防衛線維持。無理に突撃するな!」
装備が鳴る。槍が揃う。
クロスボウが装填される音。
ガチャリ。
この町は前線だ。安全地帯ではない。
ここを落とされれば、後方の曙町も危うい。
「……ここが正念場だな」
遠くで、敵影が見えた。
鉄鎧。統率された歩み。
だが目は濁っている。
誇りを失った兵士の目だ。
王都の亡霊。
崩壊の残骸。
その成れの果てが、こちらへ剣を向けてくる。
エドワルドは静かに告げた。
「——迎撃開始」
元領主館の焼け跡の町で初めて。本物の“対人戦”が始まろうとしていた。