作品タイトル不明
煙を見て帰る者たち
臨時司令部。
机の上で地図を睨んでいると、外が慌ただしくなった。
「エドワルド様!」
扉が勢いよく開く。レオンだ。
「曙町から早馬です」
「曙町?」
思わず顔を上げる。早すぎる。
昨日、補給隊が着いたばかりのはずだ。
「何かあったのか?」
「いえ……どちらかと言えば、良い報せかと」
文を受け取る。
封を切り、素早く目を走らせた。
「……煙?」
「はい」
レオンが横から補足する。
「どうやら、曙町の町から煙が上がったのを見た者たちが居たようで」
「煙……?」
一瞬、嫌な想像がよぎる。
火災か?襲撃か?だが違った。
「その者たち、保護を求めて町へ戻ってきたそうです」
「戻ってきた?」
「はい。近くの山岳に逃げ込んでいた住民らしいと」
手紙の続きを読む。
——山中に潜み、町の様子を窺っていた
——再び煙が上がった
——だが黒煙ではなく、炊き出しの白煙
——人の動きも見える
——それで恐る恐る下山してきた
「……なるほどな」
自然と息が漏れる。
「山から見下ろして……生きている町だと気付いたのか」
「そのようです」
人数欄を見る。
「保護人数……約五十名」
老人。女。子供が中心。
男手は少ない。
おそらく戦や混乱で失ったのだろう。
「野盗の類では無いと確認済み。現在保護中」
そこまで読んで、ようやく肩の力が抜けた。
「……良かった」
小さく呟く。
「まだ……生き延びている人達が居たのか」
正直。
この辺りはもう全滅に近いと、半ば覚悟していた。
空の村に腐臭の町。遺体ばかり。
そんな光景ばかり見てきた。
だから——
「戻ってきた、か」
胸の奥が、じんわり熱くなる。
俺たちが灯した煙。
炊き出しの煙。
それが。
「……目印になったんだな」
レオンが静かに笑う。
「狼煙みたいなもんですな」
「ああ」
戦の狼煙ではない。
「生きている、という狼煙だ」
人が居る。安全だ。戻ってこい。
そう伝える煙。
「悪くない」
むしろ——
理想的だ。
こちらから探しに行かなくても、
向こうから帰って来る。
それはもう。
「再建が始まっている証拠だ」
救助ではない。復興だ。
レオンが言う。
「これからも同じような者が出るでしょうな」
「だろうな」
「煙を見て、“あそこはまだ生きてる”と」
「……なら」
決断は早い。
「曙町の炊き出しは止めるな。むしろ増やせ」
「はい?」
「煙を絶やすな」
レオンが一瞬きょとんとし。すぐに理解して笑った。
「なるほど。目印ですか」
「そうだ」
「生存者への合図だ」
——ここは安全だ、と。
——帰って来い、と。
「町はな」
窓の外を見る。
「人が戻ってきて、初めて“町”になる」
建物だけでは、ただの廃墟だ。
人が居て火があって飯の匂いがして。
それでようやく町だ。
「……曙町」
自分で付けた名前を口にする。
夜明け。その名の通り。
本当に少しずつだが、光が差し始めていた。