作品タイトル不明
金と責任と再建の算段
簡易机の上に、羊皮紙を広げる。
インク壺。羽根ペン。そして地図。
その中央に、昨日書き込んだ新しい名前。
——曙町。
「……」
眺めるだけで、少しだけ胸が落ち着く。
滅びた町に、初めて“未来”が出来た気がした。
だが。
「感傷に浸っている場合じゃないな」
椅子に腰掛け、ペンを取る。
「それなら……父上にも文を出しておかなければ」
曙町を拠点に再建を開始すること。
保護民の中から希望者を募り段階的に移住させること。
この町を隣領南部の補給・中継拠点にすること。
やると決めた以上、正式に通達しておく必要がある。
勝手にやりました、では済まない。
もうこれは——軍事行動ではなく。
統治だ。
「必要なのは……」
指折り数える。
「農具」
鍬。鋤。斧。のこぎり。
「種」は蕪。じゃじゃ芋。黒麦。
「肥料も要るな……」
ここの土地が如何なってるか解らない。
最初の収穫を失敗すれば、そのまま飢える。
ここは絶対に外せない。
「食料だけ送っても意味が無い」
食わせ続ければ、ただの“難民収容所”になる。
「自分達で食える土地にしなきゃ意味が無い」
それが再建、保護ではない。
生活だ。
ペンを走らせながら、ふと手が止まる。
「……費用、か」
当然、物資はタダではない。
余裕がある訳ではないし、父に負担を押し付ける訳にもいかない。
「……なら」
自然と、あの地下室が頭に浮かぶ。
炭化した領主館。隠し扉。そして。
金貨の山。
「……あの金を使うか」
レオンが「裏金」と呼んだ金。
正規の税ではないだろうし、民から吸い上げた金だろう。
ならば。
「民に返すのが筋だな」
俺の懐に入れる気は無い。
戦費に消す気も無い。
再建費用。
農具。種。肥料。建材。
「全部、購入扱いにする」
正式な商取引。
金を払い、物を受け取る。
そうすれば。
「父上にも負担は掛からない」
援助ではないし取引だ。そうすれば対等。
それに——
「記録にも残せる」
どれだけ使い、何を買い、何人を養ったか。
数字に出来る。感情ではなく実績として。
それが後々、必ず効いてくる。
「……ほんと、領主の仕事だな」
小さく苦笑する。
昔の自分なら考えもしなかった。
剣を振るうより。
金勘定と物資管理の方が、よほど人を救う。
皮肉な話だ。
ペンを置く。封蝋を溶かし、家紋を押す。
「これでよし、と」
レオンが入ってくる。
「書状ですか?」
「ああ。父上へだ」
「内容は?」
「曙町の再建開始。農具と種の購入依頼。それと——」
少しだけ笑う。
「金はこっち持ちだ」
レオンが目を丸くする。
「ほぉ?」
「あの裏金を使う」
「……はは」
肩を震わせた。
「滅んだ領主の金で、町を復活させる訳ですか」
「悪くないだろ?」
「最高ですな」
二人で小さく笑う。
「補給隊に持たせろ。最優先で」
「はっ」
扉が閉まる。
一人になり、窓の外を見る。
煙。人影。作業。
「……さて」
立ち上がる。
「次は人手だな」
金はあるし物資も来る。
なら。
あとは。
「人を、戻すだけだ」
曙町の再建が、本当の意味で動き始めた瞬間だった。