作品タイトル不明
死んだ道と生きている道
昼を少し回った頃。
司令部代わりの石造りの建物に、次々と偵察隊が戻ってきた。
靴音が荒い。
顔色が悪い。
……嫌な報告だと、入ってきた瞬間に分かる。
「報告します」
最初の偵察兵が膝をつく。
「王都方面の街道沿い、三つの村を確認」
「……生存者は?」
一瞬の沈黙。
「——無し」
空気が重くなる。
「家屋は半壊。略奪済み。遺体多数。……時間が経ち過ぎています」
「……そうか」
やはり。
「他は?」
「井戸も荒らされ、穀物庫は空。火を掛けられた形跡もあります」
逃げたのか。殺されたのか。
餓死か。もう区別も付かない。
「王都に近付くほど、状況は悪化しています。
……正直、“死んだ道”です」
死んだ道。言い得て妙だった。
王都へ続く道は、もう人の住む場所ではない。ただの廃墟の連なりだ。
「……解った。ご苦労」
兵が下がる。
続いて、別方向の偵察隊が入ってきた。
だが——こちらは様子が違った。
「報告!」
「言え」
「南西の町外れの商館に立て籠もっていた住民二十七名を発見!子供と老人が多数!」
「怪我人は?」
「数名。ですが全員生存。現在こちらへ誘導中です!」
空気が、少し軽くなる。
「他にも、農家の納屋に潜んでいた家族を三組保護しました!」
「合わせて四十名ほどか」
「はい!」
生きている。まだ、間に合う。
レオンが腕を組む。
「……随分差が激しいですな」
「ああ」
地図を見る。王都側は、×印ばかり。
南西と南は、○が増えている。
「王都から遠いほど、生存率が高い」
「暴動や略奪の本流が王都から広がった証拠ですな」
つまり——
「王都側は後回しだ」
俺は即断した。
「助けられる方から助ける」
「賢明です」
「死んだ場所を漁るより、生きている場所を拾う方が早い」
兵力は有限だ。感情で動けば、全員共倒れになる。
「保護した連中は?」
「既にこちらへ向かっています」
「炊き出しの準備を増やせ。寝床も確保」
「はっ」
団員が走る。司令部の外が慌ただしくなる。
水。鍋。毛布。民兵たちが自然と動き出す。
もう誰も指示を待たない。
助けるのが当たり前になっている。
……不思議な光景だ。
つい数日前まで、ただの避難民だった連中が。
今は他人を迎える側に回っている。
「……変わるもんだな」
「何がです?」
「人だ」
レオンが小さく笑う。
「追い詰められると、案外強いもんです」
「だな」
窓の外を見る。遠く。
南西の道に、小さな列が見えた。
団員に守られながら、ゆっくり歩く人影。
子供を背負った母親。
杖を突く老人に荷物を抱えた男。
生きている。
「……あっちは、まだ間に合う」
胸の奥に、わずかな熱が灯る。
「レオン」
「はっ」
「明日から偵察は南西と南を重点に回せ。
王都側は最低限でいい」
「了解」
進む道は決まった。死んだ道ではなく。
生きている道を選ぶそれだけだ。
司令部の外で、炊き出しの煙が上がる。
今度は——希望の煙だった。