軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

救ったその先

ふぅ……。

一人になった司令部の一室で、エドワルドは深く息を吐いた。

外では鍋の音。水を運ぶ声。子供の泣き声。

生きている音が、あちこちから聞こえてくる。

……ここまで来た。

救護の為。ただそれだけのつもりで。

助けられる者を助ける。拾える命を拾う。

ただ、それだけを考えて走ってきた。

だが。

「……この後は?」

ぽつりと呟く。

机の上には地図。保護人数の書類。

物資の在庫。数字だけが並ぶ。

「救って……それで終わりか?」

違う。

それでは意味がない。ここで保護した人々を、全員うちの領へ送るか?

南町へ。領都へ。

確かにそれが一番“安全”だ。

食料もある。家もある。体制も整っている。

だが——

「それじゃあ……」

ペンを置く。

「ただ土地だけが残るな」

人の居ない町。畑の無い土地。家だけが並ぶ廃墟。それを「領地が増えた」と呼ぶのか?

違う。

それは、ただの空白だ。

「……しくじったな」

苦笑が漏れる。救護を急ぐ余り。

“その後”を描いていなかった。

助けることばかり考えて、生かす方法を考えていなかった。救うのは一瞬。

だが。

生活は、永遠だ。

「ここで……立て直すか」

自然とその言葉が出た。

この町でこの土地で。もう一度、暮らせるようにする。それが本当の意味での救護だ。

「南町から戻りたい者を募る……か」

元隣領の民も多い。故郷に帰りたい者もいるだろう。土地勘もあるし畑も知っている。家の修繕も出来る。

即戦力だ。悪くない案だ。

だが——

「……戻らせるだけじゃ足りん」

食料。種。農具。治安維持。

最低限の兵。

そして——

「責任者が要るな」

誰かを置かなければ回らない。

村長か?代官か?臨時の統治官か?

俺か?

……いや。

俺が張り付く訳にはいかない。

まだ助ける場所は残っている。

「……結局」

苦笑する。

「やることが増えただけか」

救った数だけ責任が増える。それが領主か。

「楽な道は無いな」

その時、コンと扉が鳴る。

「入れ」

レオンが顔を出した。

「炊き出し、順調です。住民も落ち着いてきました」

「そうか」

少し迷ってから言う。

「レオン。相談がある」

「は?」

「ここを捨てる気は無い」

レオンの眉が僅かに動く。

「……ほう」

「保護した連中を全員うちへ送れば楽だ。

だが、それじゃ意味がない」

窓の外を見る。

灯りが一つ、また一つと点く。

「この町は、この町として生き返らせる」

静かに告げた。

「ここで生活を再建する」

数秒の沈黙。そして。レオンは、ニヤリと笑った。

「やっぱりそう言いますか」

「何だその顔は」

「いえ。エドワルド様らしいな、と」

肩をすくめる。

「土地だけ取って終わる人じゃないとは思ってました」

「当然だ」

「なら人手が要りますな」

「ああ」

「南町から帰郷希望者を募るのが早いでしょう。元隣領民なら喜んで来ます」

「だな」

「兵も少し残す必要があります」

「それもだ」

やる事が、山のように増えていく。

だが——

不思議と嫌ではなかった。

「……忙しくなるな」

「戦より面倒ですよ?」

「知ってる」

二人で小さく笑った。戦は壊すだけ。

だが。

再建は作る仕事だ。その方がよほど難しい。

「……明日からだな」

「はい」

救ったその先。ようやく。

本当の戦いが始まろうとしていた。