作品タイトル不明
刃だけが兵ではない
広場の隅。
レオンは腕を組み、黙って眺めていた。
新しく到着した四十名。女性クロスボウ隊。
最初は、正直なところ半信半疑だった。
女が戦場に立つ?
綺麗事だろう、と。
足手まといになるだけではないか、と。
だが――
「……ほぉ」
小さく感心の声が漏れる。動きが、妙に良い。まず無駄がない。
走らない。騒がない。慌てない。
しかも遅くもない。
静かに、素早い。クロスボウの点検。
弦の張り。矢の確認。部品の清掃。
全員が自然に手分けして行っている。
誰かが指示を出している様子もない。
「気が付いた奴が、気が付いた事をやる、か……」
男の兵ならこうはいかない。
「おい!」
「誰だやってないのは!」
「勝手に触るな!」
まず怒鳴り声が飛ぶ。あの四十人には、それがない。
代わりにあるのは、
「これ持ちます」
「そっち終わったら手伝います」
「水足りてます?」
そんな小声のやり取りだ。
戦場に似つかわしくない、穏やかな空気。
だが――結果的に、準備は一番早い。
「面白ぇな……」
さらに目に付くのは、周囲への影響だった。
炊き出しの手伝いに怪我人の包帯交換。
子供の相手に老人の荷運び。
頼まれなくても動いている。
「ありがとうねぇ……」
「助かるよ」
自然と声が掛かるし笑顔が返る。
民の警戒が、目に見えて解けていく。
レオンは小さく笑った。
「勇ましいだけが兵じゃねぇ、ってことか」
戦力として見る。
射撃精度は悪くない。腕力も十分。訓練も真面目。
そして何より。
「民から嫌われねぇ兵」
これは、とんでもなく価値が高い。
占領地で一番怖いのは敵兵ではない。
民の反感だ。
石。密告。放火。夜襲。
それでいくらでも崩れる。
だが、あいつらが居れば。
「……案外、悪くねぇどころか」
レオンは鼻で笑う。
「下手な荒くれ男より、よっぽど優秀だ」
その時。後ろから足音。
「レオン」
振り返る。
「エドワルド様」
エドワルドも同じ光景を見ていた。
女性兵が子供に水を渡している姿。
老人の荷を運ぶ姿。
「……良いな」
ぽつりと言う。
「何が、です?」
「あいつらだ」
少し考えてから続けた。
「兵なのに、怖くない」
レオンは苦笑する。
「確かに」
「これなら“助けに来た軍”に見える」
侵略軍ではない。占領軍でもない。
守る側。その印象は、何より強い武器だ。
エドワルドは表情を引き締めた。
「レオン。良いか?」
「はっ」
「兵を二手に分ける」
空気が変わる。作戦の顔だ。
「ここの元領主館までは前進したい」
町の中心。石造りの堅牢な建物。
恐らく、まだ何かが残っている。
物資か。敵か。情報か。
いずれにせよ、放置は出来ない。
レオンは即座に頷いた。
「そうしましたら編成を行います」
頭の中で既に組み立てている。
「第一隊は主力歩兵+女性クロスボウ隊を護衛兼後方火力に」
「第二隊は町の防衛と補給管理」
「分散し過ぎず、しかし即応可能な配置にします」
流石だ。迷いがない。
「編成完了次第、前進可能です」
「頼む」
「はっ」
レオンは踵を返し、怒鳴る。
「各小隊長! 集合だ!」
声が飛び、兵が走り。
町が一気に“軍”へと変わる。
さっきまでの穏やかな空気が、今は鋼の緊張感に変わっていく。
エドワルドはその様子を見ながら、静かに思った。
……形になってきたな。
寄せ集めだった。民兵だった。だが今は違う。
歩兵。傭兵。そして女性クロスボウ隊。
それぞれ役割があり、それぞれ意味がある。
これはもう――
「軍だ」
誰に聞かせるでもなく、呟いた。
そして視線を前へ向ける。
元領主館。
次の目的地。
「……さて」
小さく息を吐く。
「何が出るかな」
救助か?敵か?それとも?
この戦の行方を変える“何か”か。
軍は、静かに動き始めた。