軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四十の矢。拠点は息を吹き返す

町に、人の声が戻ってきた。

鍋の湯気に薪を割る音。

子供の泣き声に怒鳴る声。

笑い声。

数日前まで。

死臭と沈黙だけだったこの場所が、今は確かに“生きている”。

「……悪くない光景だな」

エドワルドは、簡易柵の上から町を見下ろして呟いた。

炊き出し場では粥が配られ、広場では怪我人の手当てが行われ、空き家は次々に寝床へと変えられている。

まずやったのは、戦うことではなかった。

回復だ。

保護した民の体力を戻すこと。

食わせ寝かせ働かせない。

それだけで、人は驚くほど生き返る。

そして同時に。

レオン配下の団員と民兵を混成にした。

「素人だけで固めるな。必ず一人、団員を入れろ」

というレオンの指示だ。

五人一組。

そのうち一人が傭兵。

それだけで、動きが全く違う。

隊列。警戒。撤退判断。

素人だけでは混乱する場面でも崩れない。

「やはり“芯”があると違うな……」

「当然です」

横でレオンが答える。

「統率の取れた一人は、十人分の価値があります」

そして。

偵察隊はさらに外へ送り出した。

隣町。周辺の村。森の小集落。

片っ端から確認。

結果――

「本日までの追加保護、百八十三名」

団員が報告する。

「うち子供が六十七、老人三十八。戦闘不能者多数です」

「……十分だ」

エドワルドは頷く。

「よく見つけてきた」

「現在この町の総人数は――」

紙をめくる。

「五百六十二名になります」

「……五百、か」

つい数日前。無人だった町だ。

それが今は、小さな村一つ分の人口になっている。

「もう完全に“拠点”ですな」

レオンが言う。

「ああ」

もはや通過点ではない。ここは前線基地だ。

補給。休養。救助。そして次の進軍の足場。

間違いなく、俺たちの“根”になっている。

その時だった。

見張り台から声が飛ぶ。

「隊影確認! 南街道より接近!」

全員が顔を上げる。

「補給隊か」

エドワルドとレオンは顔を見合わせた。

タイミングが良すぎる。

「本当に流石ですな、うちの父上殿は」

「違いない」

門が開く。

荷馬車が数台。穀物袋。干し肉。薬品箱。

そして――

その後ろ。規則正しく歩く一団。

「……あれか」

全員、同じ装備。軽装革鎧。短槍。

そして背に背負った、小型のクロスボウ。

四十名。全員、女性。

年齢も様々だ。若い娘もいれば、子持ちに見える者もいる。

だが。

目だけは、民兵よりよほど鋭い。

「……なんだあれ」

民兵たちがざわつく。

「女……だよな?」

「害獣対策クロスボウ部隊……?」

先頭の女性が兜を取り、こちらへ歩いてくる。深く一礼。

「南町志願兵、四十名。増援として参りました」

声が強いし震えていない。

エドワルドは一瞬言葉に詰まり。

そして小さく笑った。

「……本当に来たのか」

「はい」

「後悔は?」

「ありません」

即答だった。

「守られてばかりは、性に合いませんので」

周囲の団員たちが苦笑する。

レオンが顎に手を当てて言う。

「女の戦士自体は珍しくありませんがな」

「そうなのか?」

「地方の部族じゃ普通に居ます」

肩をすくめる。

「ただ――」

ニヤリと笑った。

「正式な軍編成としての女性部隊は、恐らくこれが初でしょうな」

「……初、か」

歴史の最初。そんな大層な話じゃない。

ただ。

「恩を返したい」と言っただけの四十人。

それだけだ。

その四十人が。この軍を、確実に“軍隊”へ変えている。

民の集まりが。

組織へ。意志へ。力へ。

変わっていく。

エドワルドは頷いた。

「歓迎する」

四十人を見渡す。

「君たちは今日から、我が軍の兵だ」

静かに、しかしはっきりと言う。

「共に守ろう。この土地と、人を」

「「「はっ!!」」」

四十の声が揃った。

乾いた空に、鋭く響いた。その音は。

この町がもう“避難所”ではなく。

――戦う拠点になった証のように聞こえた。