軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

父の書状と四十の覚悟

補給物資の整理が一段落した頃。

エドワルドは、宿屋跡の一室を仮の執務室として使っていた。

元は応接間だったのだろう。

埃を払い、机を置いただけの簡素な部屋。

だが今は、ここがこの町の中枢だ。

窓からは、炊き出しの煙が見える。

子供の笑い声も聞こえる。……昨日まで死んでいた町とは思えない。

「さて」

手元の革袋を見る。

父の紋章に我が家の封蝋。

無事を知らせるただの報告か。

それとも。政治的な何かか。

どちらにせよ、軽い内容ではない。

封を割る。紙を広げる。

父の癖のある、力強い字。

『エドワルドへ』

そこから先を読み進め――

「……は?」

間の抜けた声が出た。もう一度読む。

見間違いかと思った。

だが。

何度読んでも同じ内容だ。

「……女性?」

思わず声に出た。

ちょうど入ってきたレオンが首を傾げる。

「どうしました」

「いや……」

紙を渡し、レオンが黙読する。

数秒後。

「……ほう」

ニヤッとした。その顔が腹立たしい。

「笑うな」

「いえ、これは……予想外で」

書状の内容は単純だった。

南町にて――追加の志願兵が出た。

その数、約四十名。

問題はその内訳。

『その大半が女性である』

「……なんでだ」

思わず天井を仰ぐ。頭が痛い。

さらに続き。

『最初は冗談かと思ったが本気だった』

『止めたが聞かん』

『食わせてもらった恩を返すと言ってきかん』

『正直扱いに困っている』

……文面から父の困惑が滲み出ている。

そして最後に。

『仕方なく槍を持たせた』

『槍だけでは心許ないので害獣対策クロスボウも装備させた』

『現在訓練中』

『数日以内に補給隊と共にそちらへ送る』

「……」

「……」

沈黙。

レオンがぽつり。

「害獣対策クロスボウ装備、ですか」

「そこじゃないだろ」

「いや、戦力的にはかなり有難いですが」

真顔で言うな!まあ確かに。

クロスボウは強力だ。

訓練も少なくて済むし力もあまり要らない。

女性でも十分扱えるし、理屈では分かる。

分かるが。

「……父上、絶対頭抱えただろうな」

自然と苦笑が漏れた。容易に想像できる。

しかめ面で。

「帰れ」と言って。

それでも引かず。最後には諦めて「勝手にしろ!」と槍を渡す姿が。

「らしいですな」

レオンも笑う。

だが。

笑いながらも、胸の奥が少し熱い。四十人。

戦場に出る必要なんて無い人間たちだ。

逃げていても良かった。

守られる側でいても良かった。

それでも。

来ると言った。

「……恩返しか」

南町は保護民の町だ。隣領から逃げてきた者たち。助けられた側。その彼女たちが。

今度は、助ける側に回ると言う。

「……参ったな」

「何がです?」

「俺が“救助だ”って言ってるのに」

小さく笑う。

「向こうはもう“戦争する気”だ」

守られるだけの民はいない。皆、覚悟を決めている。

俺だけがまだ言い訳をしているのかもしれない。

「どうします?」

「どうもこうもない」

肩をすくめる。

「来るなら受け入れるしかないだろ」

「ですな」

「ただし」

窓の外を見る。

槍を持って訓練する民兵たち。

「あくまで“守るための兵”だ」

「侵略の兵にはしない」

レオンが軽く敬礼する。

「了解しました、指揮官殿」

その言葉に。少しだけ、実感が湧いた。

俺はもう。誰かの息子ではなく。

ただの貴族でもなく。

――軍を率いる側なのだと。

手紙を丁寧に畳む。

「……数日後、か」

四十人の女性兵。

クロスボウ部隊。また、この軍は少し形を変える。小さな領軍が。

少しずつ。

本物の“戦力”になっていく。

嬉しいような。怖いような。

複雑な気持ちのまま。エドワルドは、静かに息を吐いた。

「……忙しくなるな」