軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

届いた命綱

朝の空気は冷たく、乾いていた。

即席の見張り台の上から、民兵が声を張る。

「……土煙!」

全員が顔を上げた。

一瞬、緊張が走る。

レオンが即座に指示を飛ばす。

「構えろ。だが撃つな。旗を確認しろ」

槍が握られる。静寂。

やがて。

「……味方旗! 味方の紋章です!」

その一言で、空気が緩んだ。誰かが大きく息を吐く。

「補給隊だ……」

エドワルドは目を細めた。ゆっくり近付いてくる荷馬車の列。

十台以上。穀物袋。樽。木箱。

そして護衛の団員たち。

「……タイミングが良すぎるな」

呟く。まるで計ったかのようだ。

昨日、救助と偵察を終え。

今日、食料と物資が届く。

これ以上ない流れ。

レオンが隣で当然のように言う。

「予定通りです」

「……予定?」

「三日以内に補給が必要になると見て、出発前に手配しておきました」

さらっと言う。

「……お前な」

思わず苦笑する。

「いつの間に」

「兵站を考えない進軍は自殺ですので」

当たり前の顔だ。この男は。

戦う前に勝負を決めるタイプだ。

荷馬車が門をくぐる。

「うおお……!」

民兵たちがどよめく。

「パンだ……!」

「干し肉!」

「薬草もあるぞ!」

歓声に近い声、それも当然だ。

ここ数日は配給を削っていた。

子供や老人優先。

兵は後回し。皆、腹を空かせていた。

「列を作れ! 押すな!」

「怪我人から先に回せ!」

文官たちが指示を飛ばす。

町が、急に“生きた場所”になった。

昨日まで死んでいた町が。

今は、人が動き、声が響き、煙が上がる。

まるで息を吹き返したみたいだ。

エドワルドはその光景を見つめた。

「……拠点になるな」

「ええ」

レオンが頷く。

「これで最低十日は持ちます。井戸も生きている。防壁さえ整えれば十分籠城可能です」

「即席の野営地から、要塞か」

「ようやく“軍”になりますな」

その言葉に。胸の奥が、少しだけ熱くなる。

ただの救助隊でもないし、逃げ回るだけでもない。

守る場所がある。

守れる力がある。

それだけで、人は強くなる。

「……流石だな、レオン」

「は?」

珍しく間の抜けた声。

「補給のタイミング。完璧だ」

「当然の仕事をしただけです」

照れ隠しか、視線を逸らす。

だが。

こいつが居なければ、今頃この軍は空腹で瓦解していた。戦術より先に兵站。

それがどれほど重要か。身に沁みる。

その時。

補給隊の団員が駆け寄ってきた。

「エドワルド様!」

「どうした」

「本隊より預かり物です」

差し出されたのは、小さな革袋。

中には封蝋の押された書簡。

「……文?」

「はい。至急とのことです」

袋を受け取る。封蝋には。

見慣れた我が家の紋章。

つまり――

父からだ。胸の奥が、わずかにざわつく。

このタイミングでの書状。

ただの近況報告であるはずがない。

嫌な予感と何かが動き出す予感。

その両方が混ざる。

エドワルドは、静かに封に指を掛けた。