軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

守り切った命の重さ

建物の扉が、ゆっくりと開いた。

軋む音。

まるで何日も動かしていなかったかのようだ。

中から出てきたのは、弓を持った男が三人。

全員やつれ、頬はこけ、腕は細い。

戦える身体じゃない。

それでも。

最後まで戦う覚悟だけで立っている顔だった。

「……武器を下げろ」

俺が言うと、レオンが合図する。

団員、民兵、全員が槍を下ろした。

敵意が無いことを示すため、わざと大きく。

それを見て、男たちはようやく弓を下ろした。

「……中へ」

案内され、建物へ入る。

そして——

一歩踏み入れた瞬間。言葉を失った。

「……っ」

空気が、重い。血と汗と、腐臭と、飢えの臭い。床には藁。その上に、横たわる人。

老人。女。子供。数十人。

いや、百近いか。皆、痩せ細っている。

頬は落ち、目は落ち窪み、立ち上がれない者も多い。

包帯代わりの布は血で黒ずみ、折れた腕を板で固定している者、熱でうなされている子供。医療など無い。

ただ「死なせない」ためだけの応急処置。

それだけ。

「……これが……」

民兵の一人が、呟いた。声が震えている。

さっきまで槍を握っていた男が。

ただの青年の顔に戻っていた。

奥から、か細い声。

「……みず……」

子供だ。空の桶を抱えたまま、動けないでいる。その瞬間。

俺は振り返った。

「レオン」

「はっ」

「食料と水、すぐ配れ。医療班も全員投入だ」

「了解!」

一気に空気が動く。

団員が荷を下ろし、水袋を配り、乾燥パンを砕き、鍋に湯を沸かす。

医療担当が怪我人を確認し始める。

「待て……本当に……くれるのか……?」

男が震える声で聞いた。

奪われ続けてきた人間の目だ。

「当たり前だ」

俺は即答した。

「助けに来たと言っただろ」

言葉が、ようやく届いたらしい。

女が泣き崩れた。

「……助かった……」

「もう駄目だと……思って……」

子供がパンにかじりつく。ぼろぼろ泣きながら。喉に詰まらせながら。

必死に。

「……」

胸が締め付けられる。

レオンが小さく呟いた。

「……よく、ここまで持ちこたえましたな」

「ああ……」

本当に。奇跡みたいな話だ。

この人数で、この装備で、野盗を退け、飢えに耐え、子供を守り。

誰一人、外へ見捨てず。

「……立派だ」

心から、そう思った。しばらくして。

鍋の匂いが広がり。水が行き渡り。

ようやく建物の空気が“生き物の空気”に変わる。

その頃。

最初に弓を向けてきた男が、近付いてきた。

深く頭を下げる。

「……疑って、すまなかった」

「当然だ」

俺は首を振った。

「俺でも撃つ」

男は苦笑した。そして、小さく言った。

「……王都から、逃げてきた」

「!」

周囲が静まる。

「何があった?」

男の顔が、強張る。思い出したくない記憶を見る顔。

「……地獄だ」

かすれた声。

「最初は倉庫襲撃だった。食料が無いってな」

拳を握る。

「兵が鎮圧した。何人も斬った」

沈黙。

「そしたら次の日、もっと増えた」

「……」

「今度は兵が殺された。武器庫が奪われた」

喉が鳴る。

「火が上がった。商家も、役所も、屋敷も……全部だ」

「王は?」

俺の問いに。男は、ゆっくり首を振った。

「……噂だがな」

そして。震える声で言った。

「王城が破られて……王は……民に殺されたって」

空気が、凍る。確定だ。

もう噂の段階じゃない。

実体験の証言。

王都は——終わった。

男は続ける。

「兵は逃げた。貴族も逃げた。残ったのは……奪う奴と奪われる奴だけだった」

目を伏せる。

「だから……逃げた」

その言葉が、全てだった。

俺は外を見る。

まだ煙が薄く上がっている空。

「……」

もう。王政は、戻らない。

この国は、本当に、壊れた。

そして、だからこそ。

「……レオン」

「はっ」

「救助対象、まだ増えるぞ」

「でしょうな」

俺たちは、顔を見合わせた。

これは最初の一つ。

きっと。

こんな町が、まだいくつもある。

それでも——

「全員、連れて帰る」

そう言い切った。救えた命の温もりが。

まだ、手に残っていたから。