軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

煙の向こうの弓

煙の上がる建物へ向かって、隊は速度を上げた。

だが——

「止まれ」

レオンの低い声。右手が上がる。

全隊が即座に足を止めた。

その反応の速さだけは、もう立派な“軍”だった。

「……どうした」

「臭いがします」

「臭い?」

「血と死体の臭いです」

鼻を刺す、生臭さ。風に乗って、確かに流れてくる。建物まで、あと百歩ほど。

慎重に近付く。

そして視界が開けた瞬間。

「……っ」

思わず息が詰まった。建物の周囲。

数個——いや、十近い死体が転がっていた。

粗末な革鎧。刃こぼれした剣。棍棒。

どう見ても正規兵ではない。

「……野盗か」

レオンが呟く。

「その様ですな」

だが様子がおかしい。全員。

胸や喉、額に——矢が刺さっている。

しかも。

「……正確すぎる」

ほぼ一矢で仕留められている。

偶然じゃない。

「上だ」

レオンが視線を上げる。建物の二階。

窓という窓が板で塞がれ、隙間だけが空いている。簡易の狭間。

「……籠城してる」

つまり。

中に生きている人間がいる。

しかも戦える人間だ。

「野盗がこの町を襲った?それを中の連中が迎撃した」

「……そう考えるのが自然ですな」

レオンが頷く。その時だった。

——ギリッ

微かな音。弦が軋む音。

「伏せろッ!!」

レオンが叫んだ瞬間。

ヒュンッ!!

矢が空気を裂いた。民兵の盾に突き刺さる。

「うおっ!?」

「弓だ!」

「構えろ!」

一瞬で緊張が爆発する。二階、三階、屋根。

あちこちの隙間から、矢じりが覗いている。

十、いや二十以上。

完全に狙われている。

「待て!!」

俺は叫んだ。

「撃つな!!」

だが向こうから見れば——

三百以上の武装集団。

槍。盾。鎧。

どう見ても“敵”だ。

そりゃ撃つ。当然だ。

「レオン! 攻撃するな! 絶対にだ!」

「了解!」

レオンが団員に怒鳴る。

「弓下げろ! 構えるな! 刺激するな!」

ギリギリの空気。一本でもこちらが撃てば。

本物の戦闘になる。

俺は盾を外し。両手を上げて。

一人、前に出た。

「エドワルド様! 危険です!」

「いいから下がれ!」

叫び返す。

そして、建物へ向かって声を張り上げた。

「聞け!!」

沈黙。矢は、まだこちらを狙っている。

「俺たちは敵じゃない!!」

腹の底から声を出す。

「隣領より来た! 救助隊だ!!」

反応は無い。信じるはずがない。

当たり前だ。

だから——

「食料も! 医者も! 連れて来ている!!」

一瞬。矢が、ほんの僅かに揺れた。

「野盗は排除済みだ!! もう町に敵はいない!!」

静寂。長い、長い沈黙。

やがて。

二階の板が、ゆっくりと外れた。

中から現れたのは。やつれた顔の男。

弓を構えたまま。

だがその目は——完全に、怯えていた。

「……本当、か?」

かすれた声。

「……本当に、助けに来たのか……?」

その一言で。胸が締め付けられた。

疑いより先に。願いが滲んでいる声だった。

俺は、はっきりと答えた。

「ああ」

間を置かず。

「迎えに来た」

風が、煙を揺らす。死体と血の臭いの中。

それでも。

建物の奥から。

子供の泣き声が、微かに聞こえた。

——まだ、生きている。

間に合った。本当に。ギリギリで。

俺は、小さく息を吐いた。

「……レオン」

「はっ」

「救助開始だ」

「了解」

死の町の中で。ようやく見つけた。

最初の“生存者”。救助の名の進軍は——

ようやく、本当の意味を持った。