軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

死の町と一本の煙

町の入口。

レオンの号令と共に、隊列は細く伸びた。

三人一組。

盾を前。槍を構え。

左右の建物を警戒しながら、ゆっくりと進む。

足音だけが、やけに響く。静かすぎる。

風が、家々の隙間を抜ける音すら不気味に感じる。

「窓、注意しろ」

「屋根上も見ろ」

レオン配下の団員が小声で指示を飛ばす。

完全に戦場の動きだ。

もはや“救助隊”の歩き方ではない。

敵地に入る兵のそれだった。

建物の扉は半開き。荷車は倒れ。

桶が転がったまま。

生活の途中で、時間だけが止まったような光景。

「……嫌な感じだな」

誰かが呟いた、その時だった。

――ぎゃーーー!!

甲高い悲鳴。一瞬、全員の心臓が跳ねた。

「右だ!」

レオンの団員が二人、矢のように駆け出す。

建物の中へ飛び込む。

民兵たちは——

動けなかった。分かっていたからだ。

あの声が。

“助けを求める声”ではないことを。

「……」

重い沈黙。

しばらくして、団員が戻ってきた。

顔が硬い。

「……報告」

「言え」

「遺体です。女性と子供。腐敗が始まっています」

誰も声を出さなかった。

レオンが短く息を吐く。

「……そうか」

それだけ言った。感情を殺した声。

さらに進む。数十歩。

「こちらも……三名」

「裏路地、二名」

「井戸の側に……」

報告が、次々と入る。どれも同じ内容。

どれも“過去形”。生存者ではない。

結果報告。

「……」

俺は奥歯を噛んだ。町の規模を考えれば。

これで終わるはずがない。

つまり。もっと居る。

見えていないだけで。

「エドワルド様……」

レオンが低く言った。

「この町も……」

言葉の先は要らなかった。分かっている。

手遅れだ。

完全に。

「……本来なら」

自然と声が漏れた。

「亡骸は丁重に弔ってやりたい」

ここで穴を掘り。名前を記し。

せめて土に還してやるべきだ。

だが——

「……」

時間が無い。俺たちは救助に来た。止まる訳にはいかない。胸の奥に、鈍い痛みが走る。

「進むぞ」

そう命じようとした、その瞬間。

「煙だ!」

前方の団員が叫んだ。

「煙が上がっている! 向こうだ!」

全員が一斉に顔を上げる。

町の奥。

二階建ての建物の隙間から。

細い、細い煙が。

空へ、真っ直ぐ伸びていた。

焚き火の煙。

つまり——

「……火を使っている」

「生きてる奴がいる!」

空気が変わった。

絶望一色だった場に、光が差す。

「レオン!」

「はっ!」

「生存者だ! 急げ! だが警戒は解くな!」

「全隊! 隊形維持! 目標、煙地点!」

足音が一気に速まる。今度は違う。

さっきまでの重い足取りではない。

希望に引っ張られる足だ。

俺は煙を睨みつけた。

「……居てくれ」

祈るように、呟く。

どうか。

どうか。

間に合ってくれ。死の町の奥で。

たった一本。

細く立ち上るその煙だけが——

まだ、この町が生きている証だった。