作品タイトル不明
救助の名の進軍
南町の外れ。
まだ朝日が昇り切らない灰色の空の下。
三百を超える男たちが、整列していた。
簡易の革鎧。
木盾。
槍。
武装は最低限。
だが、目だけは死んでいない。
レオンが横に並ぶ。
「報告を」
「はっ」
紙を広げる。
「志願兵三百二十七名。
私どもの団員五十名を合わせ、計三百七十七名」
「一個中隊規模、か」
「はい」
レオンは淡々と続けた。
「ただし基本は歩兵のみとなります。弓を使える者もおりますが数が少ない。よって今回の志願兵は歩兵主体の編成です」
「……仕方ないな」
本来なら。数週間は訓練を積ませる。
隊列。
連携。
撤退手順。
最低限の“軍”の形に整えてから出すべきだ。
「本来なら、訓練を行ってからの進軍だ」
「はい」
レオンも同意する。
「今の状態は、正直“武装した民”ですな」
苦笑する。その通りだ。
兵ではない。
民兵。それも即席。
「もし害獣対策クロスボウを使えるのなら、一気に変わりますが」
「……ん?」
思わず振り返った。
「そこまで確認していたのか?」
「ええ」
レオンが肩をすくめる。
「森の魔獣対策に配備していたやつでしょう?
あれは下手な弓より強力です。訓練も要らん」
「機密とまでは言わないが……それも把握していたか」
「戦力になりそうな物は、全部見ております」
流石だ。害獣用クロスボウ。
誰でも引けるし威力は弓の倍。
鎧も抜く。
本来は熊や大猪用。
だが——
戦場でも十分通用する。
「だが今回は持ち出さない」
「よろしいので?」
「ああ」
静かに答える。
「あくまで保護、救助だ」
重装備で武装して乗り込めば、それはもう“侵攻軍”だ。
「威圧しすぎるのも良くない」
「……成程」
レオンがニヤリと笑う。
「つまり“助けに来ただけですよ”という顔で近付いて、気付いたら制圧してる、と」
「言い方が悪い」
「はは」
笑い声が小さく響く。だが本質は同じだ。
俺たちは。戦争をしに行くのではない。
助けに行く。
その結果、土地が付いてくるだけだ。
……そう自分に言い聞かせ、整列した民兵たちを見る。
不安と覚悟が混ざった顔。
その中には、鍛冶屋の息子。畑の親父。
逃げてきた元隣領の若者。
昨日まで、ただの民だった者たち。
それが今、槍を持っている。
「……ここまで来たか」
小さく呟く。胸の奥が、妙に静かだ。
俺の知っている未来では、こんな光景は無かった。
王政はまだ機能していたし、隣領も存在していた。俺はもっと後手で。
そして——処刑台に立った。
だが今はどうだ。
王政は既に崩壊。王は死亡。隣領主も消え。
俺は自分の足で、軍を率いている。
「……完全に、別物だな」
未来は、もう参考にならない。
いや。とっくに壊れていた。
あの夜、王都が燃えた時点で。
「……なら」
前を見る。
「自分で道を作るしかない」
レオンを見る。
「進軍準備」
「はっ!」
声が響く。
「全隊! 行軍隊形!」
ガチャガチャと装備が鳴る。槍が揃い。
足並みが整う。初めての軍。ぎこちない。
だが——確かに、力だ。
俺は号令を出した。
「目的は隣領南部村落の保護および救助!」
全員がこちらを見る。
「敵対行為を受けない限り、戦うな!
だが民を傷付ける者が居れば——容赦するな!」
喉が震える。
「出発だ」
一歩、踏み出す。
ザッ。
三百七十七の足音が揃った。土煙が上がる。
南町の門が、ゆっくりと開く。
——守られていた民が。
今。誰かを守るために進む。それは侵攻か。
救助か。まだ分からない。
ただ一つ確かなのは。
もう、引き返さないということだけだった。